2008年10月21日火曜日

asahi shohyo 書評

メアリー・スチュアート [著]アレクサンドル・デュマ

[掲載]2008年10月19日

  • [評者]久田恵(ノンフィクション作家)

■波瀾万丈の物語はどんどん進んで

 フランスを代表する19世紀の大文豪。あの「三銃士」でおなじみのアレクサンドル・デュマ。彼の168年前の小説の本邦初訳と聞けば、これはちょっと読んでみようかしら、と思ってしまう。しかも「メアリー・スチュアート」の評伝である。

 メアリーと言えば、16世紀のスコットランドの女王。王位を巡っての陰謀、暗殺が横行し、王侯貴族に生まれたら幸福な死など願えない、という波瀾(はらん)万丈の時代に生きた女性である。

 3度の不幸な結婚の末に19年も幽閉され、ついにはライバルのイングランド女王、エリザベス1世の手で断頭台に送られてしまった。

 おまけに、夫殺しの嫌疑もかかっていた恋多き美貌(びぼう)の女王。これがそそられずにおられようか、というのが本作品なのである。

 解説によれば、デュマが劇作家から小説家へと踏み出す前の初期作品ということ。なるほど、出だしは幕前の口上風。続いて、1幕目、2幕目と物語がどんどん進む。登場人物の動きもト書き風で、なんだか芝居を観(み)ているような趣だ。そこが独特。

 とくにデュマが、気を入れて描いているのが奔放な恋に思慮を失い、自ら不幸を招き寄せるようにして国を追われた女王が、心を寄せる青年に幽閉中の城から救出される場面。はらはらどきどき。そして、物語は最後のクライマックスへと続いていく。

 ここでは運命をまっすぐに受け入れ、凜(りん)として断頭台へ向かうメアリーの身に着けた衣装が淡々と事細かに描写されていて、色彩映像が目に浮かぶ。それが女王の悲劇性を物語るようで胸に迫り、さすがデュマ、「イヨッ、大文豪!」と声を掛けたくなる。

 思えば、彼の作品とは「モンテ・クリスト伯」を10代に読んで楽しませてもらって以来、四十数年ぶりの再会だ。いや、題名は確 か「巌窟王」。あれは当時流行の青少年向けダイジェスト版だったに違いなく、ここはひとつ、本気でデュマの代表作くらいは読破せねばとの思いをかきたてら れる。「文豪デュマに親近感」、そんな一冊であった。

    ◇

 田房直子訳/Alexandre Dumas 1802〜70年。『ダルタニャン物語』など。

表紙画像

メアリー・スチュアート

著者:アレクサンドル・デュマ

出版社:作品社   価格:¥ 2,520

表紙画像

三銃士 (上巻) (角川文庫)

著者:アレクサンドル・デュマ・竹村 猛

出版社:角川書店   価格:¥ 693

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三銃士 (下巻) (角川文庫)

著者:アレクサンドル・デュマ・竹村 猛

出版社:角川書店   価格:¥ 693

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