2008年10月7日火曜日

asahi shohyo 書評

アメリカの宗教右派 [著]飯山雅史

[掲載]週刊朝日2008年10月10日増大号

  • [評者]青木るえか

■アメリカでは「神様が人類をつくった」が半分以上

  アメリカという国が怖ろしいと思う理由の一つに「宗教と結びついた保守志向」がある。全米ライフル協会とかネオコンとか中絶反対とか、そのあたりには「教 会」がガッチリとバックについてる感じがする。そういえば「テレビ伝道師」とかいうのもいたな。人気テレビ伝道師(たいていアクが強くて超保守男)が共和 党大統領候補に名乗りをあげたりしてた。

 体格のいい、髪の毛をきちっと七三に分けたおじさんが、右手に聖書、左手にライフルを持ち、白い歯を輝かせて笑いながら「神の 御名のもと、戦いは完遂する」と高らかに宣言しているような、そんなイメージがアメリカにはある。自由と民主主義を何よりも誇りにすることと、進化論を教 えた教師を処罰したり中絶手術をした医者を殺したりすることが矛盾なく並立していて、そのへんが怖ろしい。

 で、この本。宗教右派。まさに私が怖れるアメリカの象徴である。そんな宗教右派が実際にどのような影響をアメリカに与えているかを論じた本である。

 読んで一驚。まず、アメリカでは「神様が人類をつくった」と思ってる人が半分以上だそうだ。フランス革命は敵対勢力に教会が 入ってたけどアメリカの革命(独立戦争)は「教会とともに戦った」ようなもんだから、教会(プロテスタント)がいまだに行動の基盤になってるとか、南部と いえば保守層の牙城みたいに思ってたけど南北戦争でリンカーンが共和党だったので共和党に対する反感が強くて民主党支持者が多いとか(そういえばカーター もクリントンも南部出身だ)、そもそもアメリカにおける保守は「政府をなるべく小さくする」を掲げていたとか、今までバクゼンと思っていた「アメリカの保 守派」とはずいぶん実態はちがっていることがわかった。だからといって保守派がけっこういい人たちなんていう気にもなれなかったが。

 しかし、そんなアメリカでありながらちゃんと二大政党が交代で政権を握る。怖ろしい国だが、尊敬しないわけにはいかない。

表紙画像

アメリカの宗教右派 (中公新書ラクレ 291)

著者:飯山 雅史

出版社:中央公論新社   価格:¥ 798

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