2008年10月29日水曜日

asahi shohyo 書評

傷ついた画布の物語—戦没画学生20の肖像 [著]窪島誠一郎

[掲載]2008年10月26日

  • [評者]多賀幹子(フリージャーナリスト)

■「生」の証しが与えてくれる勇気

 作家である著者は97年、長野県上田市に戦没画学生慰霊美術館「無言館」を設立した。今年9月の無言館第二展示館開館を前に、本著に20点の作品を掲載、遺族などの話をもとに創作の経緯や由来をつづった。

 紹介された20人は、東京美術学校(現在の東京芸大)、帝国美術学校(現在の武蔵野美大、多摩美大の前身)などで学んだ画学生がほとんど。多くが20代の若者で、外地で戦死や戦病死している。

 「祖母なつの像」を描いた蜂谷清さんは、召集令状を受け取った日に祖母にモデルを頼み、幼い彼をおぶるときに羽織った半纏(は んてん)を着るよう注文した。半纏を燃える朱赤色で丹念にぬりこんだとき、「共有した短い歳月を、ひたすら自らの記憶の奥に刻印」したと著者は想像する。

 片岡進さんは出征前夜、明け方まで一睡もせず石膏(せっこう)の「自刻像」制作にうちこんだ。それは「デスマスク」ではなく 「ライフマスク」であって、作者が今も在る「生」の証しと著者。ともすれば「哀れな戦争犠牲者の遺留品」とされる遺作は、私たちに共感と勇気を与えるとい う。

 それでも収集展示は「当事者である画学生たちの諒解(りょうかい)や賛意」を得ていないと、彼らに許しを乞(こ)う著者の誠実さに打たれた。

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傷ついた画布の物語—戦没画学生20の肖像

著者:窪島 誠一郎

出版社:新日本出版社   価格:¥ 1,680

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