2008年10月30日木曜日

asahi shohyo 書評

岩波新書創刊70年アンケート 『日本の思想』1位に

2008年10月30日

写真宮崎駿さんが描いた「図書」臨時増刊号の表紙

  11月に創刊70年を迎える岩波新書が、作家や学者、ジャーナリストなどに「私のすすめる岩波新書」のアンケートを実施したところ、218人から回答があ り、1位に丸山真男著『日本の思想』(61年)が選ばれた。11月に出る岩波書店のPR誌「図書」の臨時増刊号に、218人全員の推薦本とコメントを掲載 し、協力書店で中旬から無料配布する。表紙の絵は、回答者の1人でもある映画監督の宮崎駿さんが描いた。

 岩波新書は1938(昭和13)年11月20日付で20点が発刊され、歴史が始まった。新書第1号と位置づけられたのはD・クリスティーの『奉天三十年』だった。刊行点数は2600点を超え、総売り上げ部数も2億冊を超える。

 70年の節目に編集部は各界著名人のアンケートを企画。1人につき3冊まで挙げてもらったが、かなり票は割れた。

 上位には岩波新書を代表する作品が並んだ。小田野耕明編集長は「戦後日本とともに歩んできた書目が並んだ。いま読んでも新鮮な発見に満ちているはず。ロングセラーとして読まれ続けてきたゆえんでしょう」と話す。

 1位の『日本の思想』を選んだ1人である東大教授の姜尚中さんは「思想と思想が原理的に対立し、それを通じて自らの位置を確定 していけるような座標軸が不在であるということ、これこそ戦前、戦後を貫く日本の思想の『宿痾(しゅくあ)』だとわかったとき、学生の私はそれまでの浪漫 派的な心情主義と決別し、現実に向き合おうと決心したのだった」と理由を述べている。

 2位の斎藤茂吉著『万葉秀歌』は評論家の加藤周一さんや詩人の大岡信さん、作家の嵐山光三郎さんらが挙げた。加藤さんは「日本語詩歌の源泉」と評価した。同じく2位だった鶴見良行著『バナナと日本人』は、ルポライターの鎌田慧さんらが推薦した。

 アンケートの回答を掲載した「図書」臨時増刊号は、岩波新書フェアを実施する書店に、部数限定で置かれる。表紙の宮崎駿さんの絵は、風をとらえて大空へ飛び立とうとする飛行機が描かれており、編集部は創刊70年にふさわしいと喜んでいる。(西秀治)

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「私のすすめる岩波新書」ランキング

(各順位の末尾は投票人数)

1位『日本の思想』丸山真男・61年刊(14人)

2位『万葉秀歌(上・下)』斎藤茂吉・38年刊(9人)

  『バナナと日本人』鶴見良行・82年刊(〃)

4位『歴史とは何か』E・H・カー、清水幾太郎訳・62年刊(8人)

5位『市民科学者として生きる』高木仁三郎・99年刊(7人)

6位『生命とは何か』E・シュレーディンガー、岡小天・鎮目恭夫訳・51年刊(6人)

  『私は赤ちゃん』松田道雄・60年刊(〃)

  『ヒロシマ・ノート』大江健三郎・65年刊(〃)

9位『零の発見』吉田洋一・39年刊(5人)

  『新唐詩選』吉川幸次郎、三好達治・52年刊(〃)

  『羊の歌』加藤周一・68年刊(〃)

  『沖縄ノート』大江健三郎・70年刊(〃)

  『自動車の社会的費用』宇沢弘文・74年刊(〃)



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