2008年10月7日火曜日

asahi shohyo 書評

水の未来〜世界の川が干上がるとき [著]フレッド・ピアス

[掲載]2008年10月5日

  • [評者]小杉泰(京都大学教授・現代イスラーム世界論)

■水資源の深刻な危機を豊富な事例で

 地球温暖化の危機がしきりに説かれているが、それに劣らぬ環境の危機が進行している。河川や地下水が干上がることで生じる水不足である。地球は水の惑星といっても、人間に不可欠な真水の水源は、危機の中にある。

 本書はそれに激しく警笛を鳴らしている。最大の原因は世界の人口増加と、それに対応するための食糧増産であった。高収量品種を用いた「緑の革命」は成功したが、それには大量の水が必要であった。たとえば、小麦1キロには千リットルの水が必要という。

 そのため、世界の各地で川が涸(か)れ、湿地が失われ、湖が干上がる現象が生じている。地底の帯水層を汲(く)み上げて、後戻りできない浪費をしている場合もある。著者は英国のジャーナリストで、自国の例も含めて、世界中から豊富な事例とデータを提示する。

 本書を読み進むと、戦慄(せんりつ)を覚える。しかし、その一方で希望があることもわかる。水はいつかどこかに戻ってくる「究極の還元可能な資源」だからである。

 地球の水の循環を考える学問は「水文学(すいもんがく)」と呼ばれるが、本書はその重要性を訴えている。今の農業に必要なのは、水一滴あたりの収量を増やす「青の革命」であると説く。

 雨水を集める伝統的な手法の再活用も、インドや中国でなされている。希少な水の有効活用という観点からは、中東や中央アジアな どの乾燥地域での伝統的なテクノロジーも、大いに意義を持っている。「カナート」などの名で知られる地下灌漑(かんがい)水路は、必要な分だけ水を取り出 し、無駄な蒸発を防ぐため、水文学的に優れているという。この技術の復興も検討に値する。

 しかし、全体としては、世界各地のダムの功罪の評価も含めて、地球規模での水利用の再考が急務となっている。特に、必要な人々に必要なだけ水が配給されるかどうかが今後の大きな課題である。

 水資源は偏在しており、地域格差は激しい。自分の快適な暮らしのために、年2千トンもの水を消費していることを知って、水の環境問題をきちんと意識する必要があると痛感した。

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 古草秀子訳/Fred Pearce ロンドン在住のジャーナリスト。

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