2009年11月8日日曜日

mainichi shasetsu 20091108

社説:冷戦終結20年 問われる日本の戦略

 歴史というのは、振り返ればいつも激動の連続と見えるのだろうか。しかし「ベルリンの壁」が89年11月9日に崩れ、それから1カ月もたたない12月3日、地中海のマルタで会談した米ソ首脳が「冷戦終結」を宣言してからの20年は、まぎれもなく激動の時代だった。

 世界は米ソの角逐から米一極体制へ、そして多極化の時代へと様相を変えた。米ソ対立は91年のソ連崩壊で名実ともに終わり、同年の湾岸戦争から 01年9月11日の米同時多発テロまで、米国は「わが世の春」を謳歌(おうか)した。米国に盾つくイラクのフセイン政権は、湾岸戦争に続くイラク戦争 (03年)で崩壊した。

 ◇単独主義から多極化へ

 だが、9・11への同情を追い風にアフガニスタンからイラクへと軍事行動を続けた米ブッシュ政権も、テロの背景にあるイスラム過激主義の危険性を 取り除くことはできなかった。むしろ世界は、米国のユニラテラリズム(単独行動主義)とネオコン(新保守主義派)の単純さに嫌気がさして多極化へと向かう のだ。

 世界の変化は、国際協調を重視するオバマ政権の発足によって加速した。折から日本では本格的な政権交代が実現し、「緊密で対等な日米関係」を掲げ る鳩山政権は「対米追従」路線と一線を画そうとしている。日米同盟を基軸としつつ、より主体的な外交を展開できるかどうか。日本の世界観と国際戦略が問わ れる時代といえよう。

 湾岸戦争では金銭支援に終始した日本は、イラク戦争で自衛隊を南部サマワに派遣した。当時の小泉政権は「世界の中の日米同盟」という言葉も使っ た。いま「親米派」からは鳩山政権の「東アジア共同体」構想について、「米国に背を向けるのか」という声も出る。だが、日本がアジアで指導力を発揮する と、なぜ対米関係を損なうことになるのか。時代の変化に対応せず、ただ米国のそばにいるだけなら、米国の負担ともなりかねない。

 米国自身、常に時代を先取りした外交を心掛けてきたことを忘れてはなるまい。98年にクリントン大統領が議会の猛反発を押して訪中し、「米中蜜 月」への流れをつくったのは、その一例だ。他方、中露は「上海協力機構」を率いて影響力を強め、最近は米中を「G2」(2大国)と呼ぶ人も少なくない。

 欧州では北大西洋条約機構(NATO)のほか欧州連合(EU)も拡大を続け、近く新条約に基づき「欧州大統領」も誕生する。変わりゆく世界の課題 は、なお冷戦構造が残る北朝鮮への対応である。北朝鮮の核・ミサイルの脅威をなくし、拉致問題の解決を図るには、日米を中心とした強い国際協力が欠かせな い。

 この20年は、世界経済にとっても激変の時代だった。東西ドイツの統合は他の欧州諸国、とりわけフランスに脅威と映り、それが通貨の面から欧州の結束と安定を目指す通貨統合を加速させることになった。99年1月のユーロ誕生である。

 一方、EUの東方拡大が進み、かつての共産圏諸国を取り込む形で巨大な単一市場が生まれた。ヒト、モノ、カネ、情報が地球規模でダイナミックに往 来するグローバリゼーションの時代が到来した。01年、中国が世界貿易機関(WTO)に加盟、高い成長を遂げながら存在感を急速に拡大していった。

 ◇強まる内向き志向

 さらに、インド、ブラジル、ロシアを加えたBRICsの台頭は、先進7カ国(G7)体制を揺るがし、主要20カ国・地域によるG20に主導権が移ることとなった。

 この間、日本はどうだったか。90年代の幕開けと同時にバブル経済が崩壊し、金融不安やデフレへの対応に追われた。欧州や新興国が大胆な変革を遂げる中、変化を恐れ、内向きの傾向を強めてしまった。

 しかし、その日本にも政権交代を機に変革を目指す機運が高まっている。利権やしがらみで動きがとれなかった国内構造を変えるのはもちろんだが、新しい課題に直面した世界の中で、より良い将来に向けた提言や行動を心掛けることが必要だ。

 例えば、揺らぐグローバリゼーションへの対応だ。昨秋のリーマン・ショックに端を発した金融危機を受け、保護主義や自国の利益優先主義が勢いづく 傾向にある。「壁」崩壊から20年を前に訪米したドイツのメルケル首相は、米議会で「グローバリゼーションはどの大陸にも好機となることを理解してもらう のが政治家の責務だ」と演説し、グローバル化に後れをとった政府の協調体制の強化を唱えた。まさに、日本が率先して取り組むべきことである。

 経済自由化の恩恵は、いつまでも自動的に受け続けられるというものではない。ブッシュ政権下で米露関係が「新たな冷戦」と呼ばれるほど冷え込んだ ように、いつどこに新たな「壁」ができないとも限らない。地域間の交流を増やし、人の心に壁を作らないことが大切だ。地球温暖化対策への貢献も含めて、日 本は国際的な相互依存のシステムをより進化させることに努めるべきだ。

毎日新聞 2009年11月8日 2時30分




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