2009年11月5日木曜日

asahi shohyo 書評

未踏峰 [著]笹本稜平

[掲載]2009年10月28日朝刊

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■未踏峰への挑戦で自信と矜持(きょうじ)を取り戻そうとする若者たち

  本書は、ヒマラヤ未踏峰を目指す若者たちを描いた山岳小説である。人生につまずき、派遣社員として過ごしていた橘裕也、共に心にハンディを抱えている戸村 サヤカと勝田慎二。彼らは、アルバイト先である北八ヶ岳の山小屋で知り合う。山小屋の主、通称パウロさんはかつて世界的な登山家だったが、彼にもまた隠し ておきたい過去があった。そんな4人は、共同生活を送るうちに連帯感で結ばれはじめる。そして、ヒマラヤ未踏峰への挑戦を互いの目標とするようになった。 ところが、ある日、突然の不幸が彼らを襲う……。

 なぜ山に登るのかと問われた時、ある人は「そこに山があるから」と答えた。もちろん、いろいろ複雑な答えを内に含んでいるのだ ろう。本書の後半は、美しい峰を持つ未踏峰ビンティ・チュリへのアタックが克明に描かれる。大自然は冷たく苛酷(かこく)な表情を見せつつ、ちっぽけな人 間を包み込む慈しみをも見せるのだ。頂への道程が辛(つら)ければ辛いほど、そこから受け取る癒やしもまた深くなる。それも人が山へ誘われる理由なのだろ う。圧巻の山岳シーンと骨太の人間ドラマが織りなす感動作である。

表紙画像

未踏峰

著者:笹本稜平

出版社:祥伝社   価格:¥ 1,785

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