2009年11月5日木曜日

mainichi shasetsu 20091105

社説:指導力不足教員 もっと実態に踏み込め

 統計数字は必ずしも実情をそのまま映し出さない。文部科学省が全国集計した08年度の「指導力不足教員」認定状況もそうかもしれない。

 認定された公立学校教員は306人で前年度より65人減り、ピーク時の04年度から260人減った。文科省の言う「取り組みの成果」もあるとしても、80万人以上いる教員の中で状況が抜本的に改善されているのか、現場に根ざした検証が必要だ。

 「学習計画が立てられない」「子供とコミュニケーションが取れない」「間違いが多い」など「指導力不足」が見られる教員は通例校長が教育委員会に 報告し、認定は専門家や保護者らの判定委員会の意見を踏まえて教委が行う。原則1年以内の研修を受け、職場復帰や他職種への転任、依願退職などに分かれ る。

 そこに至らなくとも「指導力に課題あり」と判断された教員は校内研修や授業支援などを受けたりする。その人数などは分かっていない。指導力不足の認定可否を受ける前にこれを受け、改まらない教員につき判定へという手順が多いという。

 一方、管理的職責が大きくなる校長、副校長、主幹教諭などから自ら望んで降りる「希望降任」は年々増え、今回179人。増加は制度導入の教委が増 えてきたことも反映しているが、この数字を過小評価すべきではない。現実とのギャップなどから正式採用前に辞める新人がいる問題と同様に、職務の過重さか らこうした傾向は強まる可能性がある。

 文科省の教員勤務実態調査によると、1日の残業は約2時間で、教科指導だけでなく雑多な校内業務に追われる。また、いわゆる「モンスターペアレン ト」と呼ばれる保護者らへの対応など、心身の負担は増えている。中央教育審議会の論議でも「諸外国では多くの専門的・補助的スタッフが配置されているが、 日本では教員が授業以外に広範な業務を担っている」問題が指摘された。

 例えば、米国では進路指導や生徒指導なども教員以外のスタッフが一部担っており、すべてを背負うような日本の場合と異なる。

 また希望降任は、家族の介護など私生活上の必要や事情を理由にしたものもある。私生活を大切に維持し、かつ降任したりせずに働ける余地はないか。教育現場こそ、多様な生活体験や事情を生かして教えることができる人材が必要なはずだ。

 互いに「先生」と呼び合う学校社会は、かつて長く互いが口出しをしないような風土があった。改まりつつあるが、今指導力不足や過重な職務、新人の孤立に支援態勢を充実させるには、開放的で率直な意見交換と協力が欠かせない。そこまで結実させてこそ調査の意義はある。

毎日新聞 2009年11月5日 2時30分



0 件のコメント: