2009年11月6日金曜日

mainichi shasetsu 20091106

社説:保育所設置基準 地方信じさらに委任を

 国が自治体の仕事を法令で細部にわたり規制する「義務付け」の見直しが正念場を迎えている。焦点である保育所の設置基準について厚生労働省は東京など都市部に限り面積の基準を自治体に時限的に委ね、緩和する方針を固めた。

 保育所の設置基準を全国一律で縛ることは都市部の待機児童問題などの一因とも指摘されており、厚労省方針は一歩前進だ。だが、住民に身近な行政を できるだけ地方に委ねる分権を実現する観点から、設置基準を決める権限は原則として自治体に委ね、厚労省は参考となる指標を示すことが望ましい。

 職員配置など面積以外の基準や、大都市以外の自治体への委任に向け政府は調整を継続すべきである。

 国は各種施設の設置認可など自治体行政で「義務付け」と呼ばれる基準を設け、統制している。政府の地方分権改革推進委員会は892項目について廃止や、自治体の条例への委任を勧告している。

 とりわけ調整が難航したのが、分権委が市町村への委任を求めた保育所の設置基準だ。厚労省令は調理室などの設置を義務付け、保育室の面積を幼児1人あたり1・98平方メートル以上とし、屋外遊戯場は同3・3平方メートル以上とするなど非常に細かい規制がある。

 認可がない保育所は国の補助金が交付されないため、地域の実情に応じた設置の妨げになると地方側は見直しを求めてきた。一方、厚労省は地方への委任は保育所の環境悪化を招くとして、強く反対してきた。

 確かに日本の保育所面積の基準は国際的に狭く、仮に自治体が基準をいたずらにゆるめれば児童の「詰めこみ」状態が悪化する懸念はある。

 だからといって、地方に任せれば必ず設置基準が無軌道に緩和され、保育環境の劣化を招くとの論法には賛成できない。2万5000人もの待機児童を 生む現状が画一的な取り組みで改善できるか、疑問だ。むしろ、国の基準を口実にして自治体が保育所の整備を怠っているケースも多いのではないか。基準は原 則として地方に委ね、国は参考指標を選択肢として示すのが目指すべき方向だろう。

 権限を委ねられれば、自治体には基準設定にあたり住民への説明はもちろん、結果責任も課せられる。それでこそ、住民も自治体の行政に関心を寄せるはずだ。

 国も地方に委ねると同時に、保育士の拡充など質の劣化を防ぐ環境整備に多面的に取り組むべきだ。厚労省の緩和方針は時限措置とするなど分権の視点に乏しく、他施設基準の権限移譲も十分でない。他の「義務付け」見直しにつなげるためにもさらに踏み込むべきである。

毎日新聞 2009年11月6日 2時30分

 


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