背徳のクラシック・ガイド [著]鈴木淳史
[掲載]2009年11月1日
- [評者]苅部直(東京大学教授・日本政治思想史)
■ギャグも織り交ぜ快速批評
この本が、あるヴァイオリニストによるバッハの演奏を評した言葉。「気持ちの入りようは半端ではない。濁る和音。外れる音程。何も恐れることはない、といわんばかりにゴリゴリ押しまくる。圧巻」
ここだけ抜きだすと罵倒(ばとう)しているようにも見えてしまうが、そうではないのである。いわゆる「癒(いや)し系」クラシック音楽の、音の連なりがなめらかに流れる演奏にはない、時空を歪(ゆが)めんばかりの過剰な力。いちど聴いたら病みつきになるような。
著者は、たくさんの演奏や楽曲をとりあげ、そうした魅力を巧みに言い表(あら)わす。ヨハン・シュトラウス二世の作品の名「訴訟ポルカ」が「まるで椎名林檎のアルバムを思わせる」、といったギャグをおりまぜながら、快速な音楽批評の芸を楽しませてくれる。
その豊かな知識に、新書の紙幅は狭すぎる気もするのだが、これが著者のスタイルには合っているのかもしれない。掘り出しものの演奏録音を聴くときのように、一気に読み通せる。そして、紹介されているCDをすぐに手に入れるべく、店へ駆けつけたくなるのである。
- 背徳のクラシック (新書y 225)
著者:鈴木 淳史
出版社:洋泉社 価格:¥ 777
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