2009年11月3日火曜日

mainichi hasshinbako 20091101

発信箱:平和学部を!=広岩近広(編集局)

 ノーベル平和賞に五輪の平和の祭典と、この秋、平和の二文字がちょっぴり輝いたように思う。メディアにも平和は頻繁に登場している。

 以前、井上ひさしさんに取材した折、戦争や平和が<つるつる言葉>になったと聞いた。言葉が本来もつ意味や豊かな表現が擦り切れ、使っているうちに<つるつる言葉>になっているというのだ。

 「戦争反対といっても<つるつる言葉>に反対しているだけで、気合が入らない。平和だって同じです」。井上さんはそう言って、結んだ。「言葉に力を宿らせ、言葉を鍛え直したい」

 いわゆるオバマ効果が平和に光を当てた今こそ、<つるつる言葉>から脱却する機会かもしれない。そこで真っ先にうかぶのが、岡本三夫・広島修道大 名誉教授の持論、いや念願である。日本平和学会元会長で国内の大学で初めて平和学の講座を開いた岡本さんは、こう言い続けている。

 「広島、長崎の被爆体験と平和主義の憲法9条をもつ日本の大学にこそ、平和学部がほしい」

 岡本さんによると、英国のブラッドフォード大は1973年に平和学研究科を設置し、現在、この分野の世界最大の大学センターになっている。サッ チャー政権は学部の縮小や廃止を多くの大学で断行したが、ここは例外だった。その理由は卒業生の進路が多彩で、特に国際的な仕事の需要が高いからだとい う。

 政府はアフガニスタンで民生支援を強化していく方針を示している。治安の心配が残るものの、こうした分野での人的貢献には賛成である。いつの日か、平和学部の卒業生が国際舞台で活躍する姿を見たい。そのとき平和は<つるつる言葉>ではあるまい。

毎日新聞 2009年11月1日 0時04分


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