2009年11月3日火曜日

mainichi shasetsu 20091030

社説:子ども手当 全額国庫、一律支給貫け

 子ども手当の制度設計がなかなか進まない。マニフェストでは中学卒業までの子どもに月額2万6000円(初年度は半額)を支給するとあり、「全額 国庫負担」「所得制限なし」というのが当初の構想である。ところが、財源不足にあえぐ財務省や官房長官から全額国庫負担の見直しを示唆する発言が相次ぎ、 来年度予算の概算要求でも「事業主や地方自治体の負担は予算編成過程において検討する」と明記された。「高所得世帯にまで一律に支給する必要はない」「保 育所不足の解消を優先すべきだ」という声も依然根強い。全額支給すると5兆3000億円になり、GDP(国内総生産)の1%を超え、防衛費を上回る。財源 不足を補てんするため赤字国債を増発すれば、結局は子どもの世代にツケを回すことになるというわけだ。

 しかし、だからといって当初の構想を変更すべきだろうか。子ども手当の実施に伴い現行の児童手当を廃止し、所得税の配偶者控除や扶養控除の廃止分 も充てれば新たな負担は2兆〜3兆円台に収まる。出生率回復のために強力なインパクトを与えようという政策である。国が責任を持って財源を保障する姿勢を 貫くことに意味がある。ここに来てマニフェストにはない住民税の扶養控除廃止案も浮上し、各省庁の思惑が入り乱れているが、子ども手当とは切り離して論議 すべきではないか。

 また、金持ち層を支給対象から除くには各世帯の所得を把握するなど自治体の作業コストが増大する。どんな家庭に生まれた子も社会の責任で支援するという理念を貫くためにも所得制限は設けるべきではない。

 現金給付だけでは少子化が改善できないことは認めよう。児童手当が廃止されれば、09年度予算ベースで地方自治体5680億円、事業主1790億 円の負担がなくなる。これを保育所の増設や、安心して子どもを産み育てることができる雇用環境の整備に充てることを提案したい。このまま少子高齢化が進め ば、2055年には日本の人口は8000万人台になり、医療や年金などあらゆる社会保障が破綻(はたん)の危機を迎える。国と地方が負担を押しつけ合って いる場合ではない。国も地方も企業も総力戦で臨むしかないではないか。

 マニフェスト全部をまったく変更せずに実行するのが難しいことはわかるが、子ども手当は有権者と交わした数々の公約の最上位に置かれたものだ。こ こでつまずくようではマニフェスト選挙の信頼を損なうことにもなる。また、制度設計を急ぎ早く法案を提出しなければ、支給が遅れるばかりだ。鳩山由紀夫首 相や菅直人副総理が強いリーダーシップを発揮する場面ではないのか。

毎日新聞 2009年10月30日 0時10分



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