2009年11月3日火曜日

kinokuniya shohyo 書評

2009年10月31日

『ぼくらの頭脳の鍛え方』 立花隆&佐藤優 (文春新書)

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 分類からいうと読書案内ということになろうが、副題に「必読の教養書400冊」とあるように、すぐに役に立つ本ではなく、教養というか知の基礎体力をつけるための指南書である。

 同じ方向の本としては立花氏の東大での講義をまとめた『脳を鍛える』や週刊文春の「私の読書室」をまとめた三冊の読書案内がある。まだ読んでいないが、佐藤氏の『功利主義者の読書術』も同じだろう(わざわざ「功利主義」を謳っているのは例によって逆説に違いない)。

 本書には四つの百冊リストが掲載されている。一つは立花氏、佐藤氏の書棚から選んだ百冊で、ざっとみたところ絶版本が半分近くあるのではないか。もう一つは書店で買える文庫と新書から選んだ百冊で、半年ぐらいは注文すれば入手できるだろう。

 この四つのリストをもとに対談が進んでいくが、第二章あたりからどんどん脱線していく。『ロシア 闇と魂の国家』の佐藤氏は猫をかぶっている印象だったが、本書は立花氏が相手なので行儀の悪い話がふんだんに出てくる。

 たとえば佐藤氏は政治の本質は中江兆民のキンタマ酒だという。

佐藤 昔、赤坂の料亭で、鈴木宗男さんの前で「おしめ換えてくれ」とやる東大卒のキャリア官僚がいた(笑)。お 腹を出すことによって、政治家に無限の忠誠を誓うんです。若い国会議員でも、「先生の前では隠すものはありません」と言って、素っ裸になって、オチンチン を股にはさんで、山本リンダの「こまっちゃうナ」を歌っている場面も見ました。こういう官僚、政治家たちの姿を見たので、中江兆民のキンタマ酒がやはり政 治の本質だと思うんです。

 佐藤氏は外務省幹部から毛嫌いされているようだが、こんな場面を見られていたら煙たくなるのも当然だ。

 喫茶店は陰謀の温床になるのでスターリンはつぶしたが、バルト三国には残っていたので独立運動の拠点になったという話も興味深い。立花氏が今の東 京は昔ながらの喫茶店が全滅したが、スターバックスやドトールでは陰謀をめぐらす雰囲気がないとまぜっかえすと、佐藤氏はmixiに喫茶店の機能が移転し たのではないかと指摘する。mixiで知りあった人たちがオフで公民館で会合するというのがこれからの陰謀のスタイルだというのだ。この読みは鋭い。

 佐藤氏の事件に懲りて、外務省が有能なノンキャリアが生まれないようにシステムを変えたという話には呆れた。情報活動にあたっていた国際情報局を 格下げし、人数と予算を減らし、さらに三年ルールを作ってノンキャリアもどんどん動かすようにした。これでは外交戦などできないし、実際日本は負けつづけ ているが、省内秩序と外務省の省益を守るにはこれが一番なのだそうである。

 外交官のロシア語力の低下もひどいらしい。日露の要人が会談するとロシア政府の公式ホームページに発言記録が掲載されるが、日本側発言には「通訳 されたまま」という断り書きがついていることが多い。これは日本の外交官による通訳のロシア語がひどくて理解不能という意味で、日本語にそのまま訳すと 「あんたさん、ロシアの大統領さんだった。あたい、日本の首相だった。そのとき、二人話して、うまくいった。うまくいったのは何? それ、戦略的行動の計 画ね」という感じだそうである。

 「通訳されたまま」という断り書きがついているかどうかは多少ともロシア語の知識があればわかるから、この指摘は事実なのだろう。こんなことになっていたとは知らなかった。マスコミは何をしているのか。

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