2009年11月6日金曜日

mainichi shasetsu 20091106

社説:プルサーマル 課題視野に安全第一で

 「利点」と「問題点」をはかりにかけると、現時点では圧倒的に問題点が多い。日本が原子力政策の柱としてきた「核燃料サイクル」には、課題が山積している。

 その政策の一端を担う「プルサーマル」が、九州電力の玄海原子力発電所3号機で始動した。使用済み核燃料から取り出したプルトニウムをウランと混ぜた「MOX燃料」を、通常の原発で燃やす。当初の予定から10年遅れた国の計画の第1号だ。

 海外で実施されているとはいえ、これまでとは異なる燃料を燃やすだけに、まずは安全性に十分注意して進めてほしい。その上で、日本の原子力政策の課題を改めて検討するきっかけにもすべきではないか。

 核燃料サイクルの「本命」は、使用済み核燃料を再処理し、取り出したプルトニウムを「高速増殖炉」で燃やすことだ。高い効率で資源が再利用でき、資源の少ない日本に好都合といわれてきた。

 ところが、サイクルの両輪を成す高速増殖炉と再処理工場は、度重なるトラブルで、どちらも先行きが不透明なままだ。

 高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」は、95年に冷却剤のナトリウム漏れ事故を起こして以来、停止している。改造工事の後もトラブルが続き、再開は大幅に遅れている。青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場でも、次々と問題が生じ、完成予定が延期され続けている。

 プルサーマルは核燃料サイクルの「脇役」だった。「もんじゅ」のトラブルで重要性が増したが、資源の再利用の効果は小さい。しかも、緊急時に出力を抑える制御棒の効きが通常の燃料より悪いとも言われ、より慎重な安全対策が求められる。

 こうした状況の中で、コストをかけて実施されるプルサーマルには、既存のプルトニウムを消費する意味合いがある。日本は国内外で再処理した核分裂性プルトニウムを約28トン保有している。核兵器の材料ともなるだけに減らす必要があるからだ。

 今後、プルサーマルは各原発で導入が予定されている。しかし、一つの原発でトラブルが起きれば、全国に影響が及ぶ恐れがある。そうした状況で再処 理を始めると、さらにプルトニウムが蓄積していくことにもなりかねない。再処理の後に残る高レベル放射性廃棄物の最終処分場の選定も、難航するのは必至 だ。

 温室効果ガス削減を視野に、鳩山政権は原子力の利用に積極的な姿勢を見せている。しかし、核燃サイクルを維持している国は限られ、米国でもオバマ政権が凍結している。核不拡散に向けた核燃料の扱いなど世界的情勢をみつつ、日本も柔軟に検討していく必要があるだろう。

毎日新聞 2009年11月6日 2時30分




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