2009年11月3日火曜日

mainichi shasetsu 20091102

社説:民事法律扶助 「駆け込み寺」に手当てを

 DV(ドメスティックバイオレンス)の夫と一刻も早く離婚したい。会社が給料を払ってくれない。そんなトラブルを抱えながらお金がない人のために、国が無料で法律相談に応じたり、裁判費用を立て替える「民事法律扶助」の制度が、予算不足で業務遂行に四苦八苦している。

 昨年9月のリーマン・ショック以後の不況や経済危機の影響で、借金返済や不当解雇を理由とした利用が急増し、年度末を待たずに予算が底をつきそう だという。制度は、資力のない人のための「駆け込み寺」の役割を期待されてできたものである。政府は、補正予算での対応を含め、早急に対策を講じるべき だ。

 「民事法律扶助」を運営する日本司法支援センター(法テラス)によると、裁判のため弁護士に支払う着手金などを立て替える「代理援助」の額が予算全体の8〜9割を占め、今年4〜8月で4万1862件と昨年同期と比べ34%増えた。

 自己破産や多重債務が7割以上を占めるが「会社をクビになったため」と、不況の影響を受けたケースが目立つ。次いで離婚やDVなど家事事件が続き、解雇や賃金・残業代の未払いなど労働事件は昨年同期比2.4倍増の853件に上った。

 国庫から出る今年度の運営費は104億円。償還金(立て替え金の返済分)を含めた140億円程度が利用額と見込まれていたが、今のペースでは来年 初めには予算を使い切る。そのため、法テラスは9月から、全国の都道府県事務所ごとに毎月の利用額を定め、超えた分は翌月に持ち越すよう指示した。最終的 に足りなくなった分は来年度予算に回す算段だが、まさに自転車操業だ。

 日本弁護士連合会はこの措置について「実質的には受任(弁護)制限を求めるものと受け取られている」と指摘する。事実なら由々しき事態である。制度は、憲法32条の「裁判を受ける権利」を実質的に保障する役割があるのに、それを果たせないことになるからだ。

 そもそも、日本の「人口1人当たりの法律扶助額(公費)」は欧米に比べ格段に低い。日弁連のデータによると、民事の分野で米国の約8分の1、欧州 主要国の70〜十数分の1だ。制度を作る歴史の違いはあるだろうが、市民の法的ニーズに応えるセーフティーネットとして、もっと予算措置が取られていいは ずだ。

 制度は、あくまで扶助であり給付ではない。円滑な運営には、利用者のモラルも問われる。2、3割とされる償還金の回収率を上げるには、事件を受任した弁護士や司法書士らが利用者の納得する訴訟対応をすることも肝要だ。法テラスは、その点での啓発も心がけてほしい。

毎日新聞 2009年11月2日 0時20分

 


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