かにかくに…谷崎の間違い指摘せず 吉井勇の草稿発見
吉井勇の草稿。谷崎潤一郎に触れた部分に縦棒を引いて削除している=京都府宇治市の平等院
作家谷崎潤一郎(1886〜1965)が、親友の歌人吉井勇(1886〜1960)の代表的短歌について事実と異なる記述をしたのに対し、吉井が57年 前に雑誌で指摘しようとしながら直前に草稿から削除していたことがわかった。東京の古書店で草稿を見つけた京都府宇治市の平等院住職神居文彰(かみい・も んしょう)さん(47)が6日発表した。
吉井に詳しい元京都府立総合資料館長の中山禎輝(よしてる)さんは「谷崎に恥をかかせまいという吉井の配慮がうかがえる一級の資料だ」と評価した。
吉井の短歌は「かにかくに 祇園はこひし寝るときも 枕のしたを 水のながるる」。高知県香美市立吉井勇記念館によると、吉井が1910年5月、 東京から京都・祇園を訪れた際に二十数首つくったうちの一つ。谷崎は、祇園のおかみ磯田多佳女(たかじょ)を取り上げた短編「磯田多佳女のこと」の中で、 この短歌は当初「祇園はうれし、酔ひざめの」だったと書いており、研究者の間で話題になっていた。
今回見つかった吉井の草稿は、文芸春秋の「オール読物」52年2月特別号のために書かれたもので、400字詰め原稿用紙20枚。その3枚目に 「(谷崎は)私の歌が最初は、『かにかくに 祇園はうれし酔ひざめの 枕の下を 水のながるる』としてあったといっているが、これは何かの思い違い」など と書かれていたが、ペンで線が引かれて削除され、この部分は掲載されなかった。
この短歌の歌碑が京都・祇園にあり、毎年11月8日に吉井をしのぶ「かにかくに祭」が開かれている。(伊藤武)
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