社説:金融の出口戦略 危機の教訓生かす時だ
日銀が、企業の資金繰り支援のため導入していた臨時措置を段階的に解除していく方針を決めた。リーマン・ショック後、世界の金融市場を襲ったパ ニック的動揺に対応する形で始まった異例の措置である。市場に安定が戻り、日銀に頼らなくても大企業が資金を調達できるようになってきた以上、役目を終え た対策の解除は、ごく当然のことである。
問題はその先だ。事実上のゼロ金利を少しずつ平時の水準に戻していく段取り、つまり出口戦略を真剣に考え始めねばならない。米欧の中央銀行も同じだ。世界経済は1年前と比べて明らかに改善している。出口戦略で歩調を合わせる時である。
「早過ぎる」との声もあろう。先進国の実体経済はまだ弱いし、特に米欧で企業や家計にのしかかる過剰な借金を処理しきるまでには時間もかかる。だが、日米欧の主要国がこぞって大規模な金融緩和を続けていることによるゆがみにも十分な注意を払わなければいけない。
アジアや南米の新興国では、株価や不動産価格の上昇が目立ち始めた。金や銅、鉛などの金属、原油の値段もそうだ。新興国の景気が比較的良好なこと もあるが、それだけでは説明し難い急騰ぶりだ。金利が極めて低い先進国で資金を借り、高めのリターンを期待して新興市場の資産などに投資する動きが続いて いるのである。バブルを警告する専門家の声も強まってきた。
今回の金融危機がなぜこれほどまで深刻化したのかをもう一度振り返ってみよう。住宅や証券化商品への過剰な投資をあおったのは、世界的に長期化し た低金利だった。中央銀行が借り入れコストを低く保つことは、その国の景気を刺激する上で有効だが、「当分金利は上がらない」との見方が定着すると必ず、 借り入れの行き過ぎ、そしてその資金で高いもうけを狙う投機が過熱する。投機対象は超低金利国内にとどまらない。グローバル化した金融の世界では、海のむ こうまでひずみが及ぶ。今回の金融危機で体験済みだ。
世界経済の回復をまさにリードしている新興国でバブルを膨らませているとしたらどうだろう。崩壊した時、その影響は結局、日本など先進国にも跳ね返ってくるのである。
危機対応で足並みをそろえたのと同じように、出口戦略でも協調は欠かせない。例えば日本だけが金利の正常化(一定の引き上げ)に踏み出せば、円高・ドル安など、どこかに大きな振幅をもたらし、景気を再び悪化の軌道に戻しかねないからだ。
世界はつながっている、ということを嫌というほど思い知らされた今回の金融危機である。主要国の中銀には学習の成果を見せてほしい。
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