鳩山政権の文化・芸術政策は、どうなるのか?
平田オリザさん=東京都中央区、上田潤撮影
■文化政策 目指す方向は
鳩山政権の文化・芸術政策は、どうなるのか? 民主党のマニフェスト(政権公約)を見ても、具体策がよく分からない。そんな中、劇作家で大阪大大学院教授の平田オリザ氏(46)が、内閣官房参与に就任した。文化政策はどうあるべきか、どんな提言をしていくかを聞いた。
■拠点作りへ「劇場法」
平田氏は劇作・演出家に加え、プロデューサーや演劇教育の実践者としても長いキャリアを持つ。文化政策を論じた著書『芸術立国論』もある。01年、自公保政権下での文化芸術振興基本法成立時は、芸術家の立場から活発に発言。今回の参与就任も、その延長線上にある。
「これまで国会議員との勉強会などで文化・教育政策を議論してきた。民主党には同世代の議員が多く、異なる主義主張の人とも対話できる土壌があった。私の経験や知識が役立てば、という思いと、歴史的な大変革を間近で目撃したいという作家としての好奇心から引き受けた」
首相直属の非常勤職として文化政策、教育、東アジア外交などについて情報提供や助言を行うという。重視するのは産業構造の変化への対応だ。「工業国から 情報・サービス産業国への移行を受け、外交や観光への寄与もにらんだ国際的な文化戦略やコミュニケーション能力を重視した新たな教育が必要になる」
フランスと韓国は、劇団公演や留学を通じて縁が深い。両国ではオペラや演劇、映画などの芸術が国の重要産業と位置づけられていると指摘する。その拠点づくりのため早期の制定を提唱するのが、「劇場法」だ。
「全国に2千数百の公立ホールがあるが、創造活動が行われているのはごくわずか。芸術監督を置き、演目を創造する公共劇場が30から40あればス タートできる。これらの劇場は地域の観光拠点にもなる。欧州ではナイトカルチャーを担う劇場の有無が都市の観光客数を左右する要因になっている」
一方、自公政権が打ち出したマンガ・アニメなどの「国立メディア芸術総合センター(仮称)」(117億円)について、鳩山政権は建設中止を決めた。で は、日本独自の芸術表現をどう支援するのか。「保存と展示の機能を一緒にしたのが誤り。国際競争力を持つ展示施設は50億円程度でよいものができる。立地 は大阪や福岡でもいい。保存・図書館機能は大学などにゆだね、浮いたお金を、例えば小中学校でのアニメーター体験に振り向ければいい」
ただし、文化予算の拡充は難しい。そこで注目するのが「文化関連予算5千億円」だ。文化庁の年間予算(約1千億円)に、縦割り行政の中の関連予算を整理・統合したときの数字だ。
「国際交流基金は外務省、地域創造は総務省の管轄だが、文化事業への助成金枠を持っている。私は現実的なので、それらを『文化関連予算5千億円』と呼んでいる。公共事業よりはるかに少額なので、一本化などの改革や見直しもしやすいはず」
文部科学省の来年度概算要求では、学校での演劇ワークショップなどのコミュニケーション教育について、拠点充実のための予算(新規・1億円)が盛りこまれた。
「地縁血縁や企業などの従来型のコミュニティーが失われ、厳しい国際競争にさらされる若者にとって、対話の能力は何よりも重要。これまで力説してきたことが、実を結び始めた」
首相の所信表明演説作成にかかわった。官邸の情報発信に関する助言も求められる。芸術家が権力の中枢に近づくことに、迷いはなかったのか。
「守秘義務が生じて、これまでのように自由な発言ができなくなることや、権力への批評性が問われることについては自問した。演劇と大学の仕事を続 けるため、常勤職は断った。その上で、より有効な文化行政の枠組みを整えるチャンスに、何もしないわけにはいかないと思った」(大室一也、藤谷浩二)
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平田オリザ 62年生まれ。国際基督教大在学中に劇団「青年団」を結成。95年、「東京ノート」で岸田国士戯曲賞。02年に韓国の演劇人と共作した「その河をこえて、五月」(新国立劇場制作)で朝日舞台芸術賞グランプリ。こまばアゴラ劇場芸術監督。
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