2009年11月3日火曜日

mainichi shasetsu 20091102

社説:貨物検査特措法 歩み寄り早期成立図れ

 政府は、北朝鮮に出入りする船舶の貨物検査を可能とするための特別措置法案を閣議決定し、国会に提出した。5月に2度目の核実験を行った北朝鮮に対する国連安全保障理事会の制裁決議を受けたものだ。

 法案は、麻生前政権が7月に国会提出した法案(衆院解散で廃案)から自衛隊が関与する部分を削除し、海上保安庁と税関が検査の主体となることを明確にしたのが最大の特徴である。自衛隊の活用に慎重な社民党に配慮した結果だろう。

 戦時の臨検とは違って警察活動である船舶貨物検査は、あくまで海保と税関が検査の主体となるべきであり、今回の政府案は妥当である。

 一方、自民党などは麻生政権時代と同じ内容の法案を国会提出している。検査の主体を海保と税関に限定しつつ、海保で対応が不可能であるなど「特別 な事情がある場合」は自衛隊を活用すると明記している。海上警備行動によって海上自衛隊が出動し、海保を支援したり、船舶を追尾することを想定したもの だ。

 海警行動は現行の自衛隊法に基づく措置であり、麻生政権は海自の検査は法的に不可能であるとの見解だった。とすれば、自民党案でも、これによって新たに加えられる自衛隊の活動はないわけで、実態上は政府案と自民党案に大きな差はない。

 北朝鮮船舶が重武装している場合など「特別な事情」で、現行法により海自を活用することは政府の判断である。新法にあえて盛り込む必要はあるま い。鳩山政権がその可能性を排除しないなら自民党は歩み寄れるはずだ。安全保障にかかわる法案は与野党が合意して成立を図るのが望ましい。迅速な議論を期 待する。

 武器などの禁止品目を積んだ北朝鮮船舶は、日本近海でなく中国と朝鮮半島の間の黄海を航行する可能性が高い。船舶を追尾する場合はどの海域を想定しているのだろうか。国会審議では、海保の公海上の活動領域についても、政府の見解を明らかにしてもらいたい。

 国連安保理決議は、大量破壊兵器をはじめとする武器・関連部品などの北朝鮮への輸出入を禁止し、貨物検査の実施を各国に求める内容だった。公海上の検査は、禁輸物資積載を疑う「合理的な根拠」と「船舶が所属する旗国の合意」を条件としている。

 「核の拡散」防止は日本にとっても重大なテーマであり、決議は日本が米国とともに推進した経緯がある。現行の国内法では決議に盛られた活動ができないなら、新法制定を図るのが当然だろう。

 決議を履行する法整備自体には、ほとんどの政党が前向きである。与野党に、政局的な対応を排し、法案の速やかな成立を図るよう求める。

毎日新聞 2009年11月2日 0時19分



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