社説:カルザイ氏再選 「民族融和」が最優先だ
どうも釈然としない決着である。アフガニスタン大統領選は7日に予定されていた決選投票が中止され、カルザイ大統領の再選が決まった。
しかし、1回目の選挙ではカルザイ支持票を中心に大がかりな不正投票が発覚した。2位になったアブドラ元外相は、たとえ決選投票を実施しても「多 くの不正行為が予想される」としてボイコットを決めたが、最初からあきらめることはない。公正な選挙をめざして再度、民意を問う機会が失われたのは残念 だ。
アフガンの旧支配勢力タリバンは決選投票の妨害を予告し、同国や隣国パキスタンではテロも含めて不穏な動きが続いていた。それを思えば、決選投票の中止で新たな流血が回避されたと言えないこともない。
だが、対立が解消されたわけではないのだ。カルザイ氏は国内のパシュトゥン人を、アブドラ氏はタジク人を支持母体とする。こうしたアフガン特有の民族的葛藤(かっとう)は残り、相変わらずタリバンや国際テロ組織アルカイダによるテロも予想される。
危機は先送りされただけで、むしろ決選投票の中止がカルザイ氏の求心力や正統性をかげらせ、政権基盤がさらに弱まりはしないかという心配がある。手放しに再選を祝福しにくいのは確かだ。
しかし、種々の懸念はあろうと同国の選択は尊重しなければならない。カルザイ氏はタリバン穏健派を新政権に取り込んだり、民族融和の「ロヤ・ジルガ(国民大会議)」を開くことも検討しているようだ。
民族融和はアフガン安定につながる最重要課題の一つだ。一口にタリバンと呼ばれる人々をどう選別するかという問題もあるが、国民的和解を図る取り組みを支持したい。
「汚職・腐敗」の追放も重要課題だ。1回目の投票でカルザイ氏への不正投票が目立ったのは、権力と結びついて不当なうまみを得る構造と無縁ではあるまい。それでは日本を含む国際的な支援が生かされない。
カルザイ政権の後ろ盾たる米国にも注文したい。米軍がアフガン攻撃を始めて8年。政権の座から転げ落ちたタリバンが盛り返し、勢力圏を広げる構図 には、歴史的な既視感がある。79年にアフガンに侵攻したソ連軍も、イスラム勢力の抵抗で10年後に撤退を余儀なくされたからだ。
ソ連がアフガン情勢を「血の滴る生傷」(ゴルバチョフ元大統領)と呼んだのは、米オバマ政権にとって人ごとではあるまい。米国内には「ベトナム化」への懸念もある。
テロと戦うことに異存はないが、肝心なのは「どう戦うか」である。陣頭に立つ米国には、アフガンでの賢明な戦い方と出口戦略を早く示すよう改めて求めたい。
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