2008年3月13日木曜日

asahi shohyo 書評 ヤクザ

流される若者、リアルに 大藪春彦賞・福澤徹三さん

2008年03月13日

 ホラー小説の名手、福澤徹三さんが「すじぼり」(角川書店)で大藪春彦賞を受賞した。大学生がヤクザの抗争に巻き込まれ、ずるずると破滅に向かっ ていく物語。エンターテインメントに徹した青春小説だ。後悔ばかりしている若者の姿を通して「やるせないノワール」が立ち上がる。

 主人公の亮は、チンピラに追われる途中で知り合ったヤクザに魅力を感じ、手伝いを始める。父との確執や切ない恋話、揺れる友情が描かれる。しかし亮の正義感は空回り。流されるように深みにはまっていく。

 「すじぼり」とは入れ墨の輪郭線のこと。半端者の象徴でもある。亮の背中の竜も、意気込んで彫り始めたものの、資金不足で筋彫りのままだ。

 大藪賞選考委員の逢坂剛さんは「主人公がまじめに就職活動をしようか、それともヤクザになろうかと、あれこれ悩む優柔不断さがリアル」と評価した。

 「今も昔も若者はこんなもん。青春小説の主人公は人より秀でていたり、何かいいものを持っていたりするものだが、あえて、だらしなさを選んだ」

 舞台になった北九州市で生まれ育ち、今も住んでいる。「お金も学もない人間が、水商売に行こうかヤクザになろうかと悩むのに違和感のない土地。ヤクザは基本的に人たらし、人を悪い方にも利用するが、面倒見る時はちゃんと見る」

 昭和のにおいのするアナクロな男たちが登場するが、往年のヤクザ映画のような情念はない。ぼやっと能天気な明るさもある世界は「地元小倉の臭気がするはず」と笑う。故金子正次脚本・主演の「竜二」やコーエン兄弟の映画が好きと言うのもうなずける。

 暴力シーンは鳥肌の立つ迫力だ。ワイングラスを顔に突き立てたり、電気ドリルで歯を削ったり。「映画の拷問シーンなんかはぬるい。これなら"吐く"というほんまもんの暴力、反撃不能の瞬間芸を書いた」。拷問専門の不気味な集団には、ホラー作家の真骨頂も感じる。

 「うれしかったのは、地元の知り合いが、生まれて初めて本を読んだけど面白くて最後まで読めたと言ってくれたこと。若い人にも読んでもらえたら」

 受賞後第1作は、お笑い小説だという。「実録ホラーも中間小説も、自分の中では地続き。要は何に巻き込まれるか。ヤクザなのか、霊的なものかで現象は違うが、そこから始まる何かを書きたい」

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