2008年3月20日木曜日

asahi shohyo 書評 rakugo rakugoka jazz

シュルレアリスム落語宣言 平岡正明さん

[掲載]2008年03月16日
[文]大上朝美 [写真]安藤由華

■落語家になる夢をこれで

 月刊誌に毎月、原稿用紙にして24枚。連載でなく、1回ごとに勝負をかける気合で書いた。落語にまつわるあれこれ50題。しかしそこは平岡正明 (ひらおかまさあき)さんのことだから、各回のタイトルだって「四神剣(しじんけん)ジャズ」「古今亭志ん生最大フラ値(ち)」などと多重の意味を含む し、上方落語に出てくる菓子「薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)」をめぐっては、2度にわたり「じょうよ価値学説史」を開陳するなど縦横無尽。

写真平岡正明さん(67)

 「結局、高座なんだよね、これはおれの」と語るように、落語を毎回一席聴くごとく堪能する趣だ。

 小学校3年のとき、桂文楽の「明烏(あけがらす)」を上野・鈴本で聴いたのが始まり。「落語家になりたかった」というほど一時は熱中したが、やがて封印。50年後に解き放つや『大落語』を始めとする「革命的落語論」の大著を次々に送り出している。

 平岡さんといえば、まずジャズ論だが、「ジャズも落語も同じ」と言う。どちらも、自分の中の想像力をかき立てる装置だから。従って、ライブだと集 中を妨げられるので、レコードなど複製音源中心の「完全な倒錯です」。しかし、研ぎ澄ました耳は落語家の無意識すら感受し、さまざまな噺(はなし)の奥 で、地下茎が結ぶように入り組んだ物語の来歴を見破るのだ。それは妄想かもしれないが、至って腑(ふ)に落ち、何より面白い。

 この本ではまた、横浜・野毛の闇市で米兵を見た幼少時の記憶や、粋な両親のことなど、珍しく個人史も語られている。

 「両親がいることをずっと忘れていた。落語を封印する時、一緒に消したんだね。親不孝なことでした」

 孝行心が蘇生したのも、落語の功徳であろうか。聴いて、妄想して書いて、楽しんで、「落語家になる夢が、これで達しましたね」というのだから、めでたしめでたし。

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