2010年6月25日金曜日

kinokuniya shohyo 書評

2010年06月22日

『小説家という職業』森博嗣(集英社)

小説家という職業 →bookwebで購入

「小説家になりたいなら小説を読むな!!」

小説家という職業
 天才作家、森博嗣の執筆のノウハウがすべて公開されている。おもしろい。読むべし。(と書いたものの、僕は森博嗣の小説作品をまともに読んだことはない のだ。エッセイのほうが好きな読者である)

 森は、名古屋の国立大学教授をしながら、趣味の工作の資金を稼ぐためのアルバイトとして娯楽小説を書いてきた。彼独自の方法論、執筆姿勢について 書かれている。

 僕はこの手の本(小説のノウハウ本)を沢山読んできた。本書を読んで、「小説を書くためのノウハウ本」を読むのを辞めることにした。最後の一冊で ある。

 書きたいことがあればさっさと書く。書いたものをおもしろいと思うかどうかは読者が決めること。書いたら内容は忘れる。読み返すことはない。小説 を書くことは職人の仕事である。1人で取り組む。いわばひとりベンチャー起業である。

 1人で始める仕事の魅力は、チームワークでは得難いものがある。

 冒頭にいきなり太ゴチックでこう結論が書かれている。

 もしあなたが小説家になりたかったら、小説など読むな。

 他者の作品を読んでばかりいると、影響される。影響されると、オリジナルなものが書きにくくなる。普通とは逆の発想でものを書くためには、小説を 読まなくてもいい。読むことで他者のイメージで自分の脳を占領されるよりも、自分の脳から生み出されるイメージを言語化していくほうが建設的な時間の使い 方、というわけだ。

 まったくその通りだ。

 そして感銘を受けたのは、出版不況であり、小説の危機と言われている時代ではあるが、森は小説の可能性を信じていることだ。

 たった1人でできる。文字だけの表現である。ほとんどコストゼロで始められるし比較的的短時間で可能。(森の1日の執筆時間は約2時間で、10日 くらいで一冊書いてしまうのだ。天才だと思うが、本人にその自覚はまったくない)。失敗しても失うものは時間くらいのものだ。
 にもかかわらず、読者は、すぐれた小説作品を読んだとき、たった1人の人間がゼロから生み出したことに感動する。人は、人に感動する動物なのだ。その迫 力は未来永劫続く、というのだ。

 まったくその通りだ。

 僕はユニークフェイスという問題を私小説的に書いてきた。いまも書いている。
 組織は消えても本は残る。僕が死んでも本が残る。だから書いてきた。本を書くという営みはすばらしい。
 
 小説ノウハウ本を読むのは、これが最後だ。悔いのない読書体験だった。
 


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