2010年6月17日木曜日

asahi shohyo 書評

ラテに感謝! [著]マイケル・G・ギル

[掲 載]2010年6月13日

  • [評者]清野由美(ジャーナリスト)

■元エリートが変わった理由

 エール大学卒業後、NYの大手広告会社JWTでフォードや米国海軍などの大キャンペーンを次々と担当し、副社長にまで昇進した—— という人が書いたビジネス本であれば、"デキる人の成功術"云々(うんぬん)になるかと思いきや、本書の内容はまったく違う。

 著者のマイケルはある日、自分が抜擢(ばってき)した女性取締役から解雇を言い渡される。その後、離婚で家族も失い、人生は凋 落(ちょうらく)の一途。60歳を超えた今では、スターバックスでラテを注文することさえ、過ぎた贅沢(ぜいたく)になっている。その彼が、ひょんな偶然 からスタバの従業員に採用され、トイレ掃除やレジ打ちなど、慣れない仕事に奮闘しながら、ビジネスの、ひいては人生の真実を発見していく、という意表を突 く展開なのだ。

 「スタバ前」「スタバ後」の仕事環境と、彼自身の意識の変化は、まさしく今日的な仕事のあり方を象徴する。かつて男性・白人・ コネ優位社会で特権的な仕事をしていたマイケルは、そこで幸せになれなかった。そんな彼に仕事の喜びを与えたのは、人種、学歴、年齢、価値観すべて多様な 新興組織。働き方の軸は見えや競争にはなく、顧客や仕事仲間の笑顔のため、という、いたってシンプルなものだ。

 業績悪化やリストラにおびえる仕事人たちよ。問題は環境ではない。肝心なのは、いつでも、どこでも、自分がどう価値観を転換し ていけるかなのだ。

    ◇

 月沢李歌子訳

表紙画像

ラテに感謝! How Starbucks Saved My Life—転落エリートの私を救った世界最高の仕事

著 者:マイケル・ゲイツ・ギル

出版社:ダイヤモンド社   価格:¥ 1,680

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