更年期少女 [著]真梨幸子
[掲 載]2010年5月23日
- [評者]田中貴子(甲南大学教授・日本文学)
■大人になんかなりたくなかった
ああ、「青い瞳のジャンヌ」!今から30年以上前に雑誌に連載されたマンガ(架空の)ですわよ。未完に終わったけれど、実は衝撃の ラストがあったとか、作者は二人いたとか、いろいろな噂(うわさ)があるのですが、ネットの掲示板があって、オフ会が行われるほど熱狂的なファンが今もい ますの。
「青い六人会」もその一つ。ミレーユ、シルビアと互いを優雅な名前で呼び合い、フレンチレストランでひととき現実を忘れます の。たとえスープをぢゅるっと吸っても、セーターに毛玉がついていても、そのときだけは「少女」になるんですわ。
いい年をした大人がそんなことしちゃいけないって? もちろん、みんな本当はいろいろ過酷な生活を抱えていますの。家庭の不和 に借金、高齢出産に老母の介護。今の日本では特別な「不幸」じゃないわ。どんな人でも一つくらいは重いものを背負っているの。一番若いガブリエルさんだけ はちょっと謎めいていて、自分のことは明かさないんだけど。でも、とっても素敵(すてき)な方だからいいの。
大人って辛(つら)いもの。ええ、大人になんかなりたくなかった。「自立した大人の女性」が嫌いな男がいっぱいいるくせに、年 をとったら相応にしろ、妻になれ母になれなんて、どうして強制されないといけないのかしら? 「少女」になるのは、わたくしたちのプロテストでもあるので すわ。
ところが、わたくしたちの周囲で次々と事件が起こってしまうの。それは誰かの欲望の暴走によるらしいわ。そこに、マスコミが頭 を突っ込んでますます事態は混乱して……。
ミステリーを期待なさると、足元をすくわれますわ。謎解きの快感はありませんことよ。トリックは仕掛けられているけどね。それ より、メンバーたちを描き出す著者の露悪的な筆を楽しむのはいかが? デビュー作の『孤虫症』もびっくりしたけど、女の生理的な気味悪さを暴き立てる文体 は立派な才能ですわ。
え、これを語っているわたくしは誰かって? さあ、わたくしは一体何者かしら。うふふふ。
◇
まり・ゆきこ 64年生まれ。作家。『女ともだち』『ふたり狂い』など。
- 孤虫症 (講談社文庫)
著者:真梨 幸子
出版社: 講談社 価格:¥ 730
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著者:真梨 幸子
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