2010年6月9日水曜日

asahi shohyo 書評

共感の時代へ [著]F・ドゥ・ヴァール

[掲 載]2010年5月30日

  • [評者]梶山寿子(ジャーナリスト)

■経済と思いやり、両立できる

 時代が劇的に変わりつつある今、「私たちはこれからどこへ行くのか?」という議論が盛んだが、本書では、いわば「私たちはどこから 来たのか?」に着眼して、未来への提言を行う。

 リーマン・ショックを引き起こした"強欲な"資本主義。そのルーツを人間の「利己的な遺伝子」に求める説が根強いが、動物行動 学の権威である著者は、裏付けとなる研究成果をあげながら、それに異を唱える。経済学者や政治家は、哺乳(ほにゅう)類に太古から備わる「共感」という能 力を見過ごしている。共感は生物の進化の歴史に根ざしたもの。動物は相手を蹴(け)落とすのではなく、仲間と協力したり公平に分け合うことで生き延びてき たのだ、と。

 人間にお礼を言うクジラ、見返りがなくても助け合うチンパンジーなど、豊富な事例は知的好奇心をくすぐる。マネジメントのヒン トとなる知見も多く「男性だけが潜在的なライバルの不幸を喜ぶ」「相手をまねることは絆(きずな)を生む」との指摘に思わずひざを打った。

 エンロンを破綻(はたん)に追い込んだ経営者のように、利己的で冷酷な人間は、共感にかかわる脳の深層に障害があるという。そ んな人が成功を収める社会ではなく、今後私たちが追求すべきは「経済と思いやりのある社会の両立」だと本書は説く。「公共の利益」の最大化には、共感とい う生来の能力が武器になるはずだ。

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 柴田裕之訳

表紙画像

共感の時代へ—動物行動学が教えてくれること

著者:フランス・ドゥ・ヴァール

出 版社:紀伊國屋書店   価格:¥ 2,310

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