2012年7月6日金曜日

asahi shohyo 書評

飯森範親さん(指揮者)と読む『スティーブ・ジョブズ全発言』

[掲載]2012年07月01日

飯森範親さん(指揮者) 63年生まれ。山形交響楽団や、東京交響楽団正指揮者、いずみシンフォニエッタ大阪常任指揮者など。=松本敏之撮影 拡大画像を見る
飯森範親さん(指揮者) 63年生まれ。山形交響楽団や、東京交響楽団正指揮者、いずみシンフォニエッタ大阪常任指揮者など。=松本敏之撮影

表紙画像 著者:桑原晃弥  出版社:PHP研究所 価格:¥ 945

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■「1対1」への意識に共感

『スティーブ・ジョブズ全発言』 著・桑原晃弥

 ビジネス書は結構読みます。指揮者は、楽団を支援して下さる企業などのスポンサーとご一緒する機会が多い。そういう方々と語れる共通言語を持っていないといけませんから。
  僕はウィンドウズユーザーで、Macには縁がなかった。それなのに、スティーブ・ジョブズが昨秋亡くなり、彼の歩みを知りたくてこの本を手にしました。意 外にも、僕のやってきたことと重なったんです。自分をジョブズになぞらえたいのではありません。自分のしてきたことが間違いじゃないと検証できたのです。
 見開き右側のページにジョブズの言葉が、左側のページにエピソードや解説が載っています。彼の発言にはアートを感じる。純粋で子供っぽいところもあるけれど、何の先入観もなく考えられた人なんだろうな、と。
  たとえば、「すぐれた芸術家はまねる。偉大な芸術家は盗む」。僕も、盗むことのできる音楽家になろうと学生時代から思っていました。ある程度才能があれば まねはできる。でも、相手の懐に手を入れられるだけの思慮や洞察が備わっていないと盗めない。そういう本質を突いた言葉です。
 「『これは無理 だ』と三八個の理由を並べた。そこで言った。『いや。これをつくるんだ』」。大ヒットしたiMacの開発過程で、不可能を主張するエンジニアとジョブズと のやりとりです。これ、僕が音楽監督を務める山形交響楽団で、楽団に改革を求めるたび「マエストロ、それは無理ですよ……」と言われ続けたこととそっくり です。
 山響は楽団員数が50人に満たない小規模な楽団ですが、優れた奏者も多い。だから、最初は経済的に負担でも、楽団の実力を発信できる環境 を整えようと改革に着手しました。音響がいま一つの大ホールで平日に1回だけ開いていた定期演奏会を、音響のいい小ぶりのホールで週末に2回開くようにす る。日本のオーケストラで初めてCDレーベルも持ちました。
 僕は、音楽家はサービス業だと信じています。聴いて下さるお客様があってこそ演奏会は成立するからです。2千人のホールなら指揮台の僕とお客様の関係は1対2千ではない。奏者も含め、お客様一人ひとりにどう音楽を届けるかという1対1の関係なんです。
 ジョブズの発言にもこの「1対1」という意識を感じます。iPodで選曲するために「三回以上もボタンを押させるな」という厳しい要求をしたのも、製品の向こうにいるユーザー一人ひとりを大事にしたからだと思うんです。(構成・星野学)

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著者:桑原晃弥/ 出版社:PHP研究所/ 価格:¥945/ 発売時期: 2011年11月

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