■写真とは撮る人そのものを映し出すもの
ライオンの親子やニホンザルの写真で、動物写真 家なら誰もが憧れる「ナショナル・ジオグラフィック」誌の表紙を飾った岩合光昭さん。1990年代に何度かアフリカや南極へ仕事でご一緒させていただいた ことがあるが、野生動物の撮影は忍耐また忍耐である。仕事中の岩合さんは、私にはライオンより怖い存在だった。
野生動物は美しく、またそれ以上 に大切なのが彼らの生きる大自然の素晴らしさであることを、岩合さんの写真は教えてくれる。そんな岩合さんが、気まぐれな「ネコさま」を撮る極意を伝授し た本が本書だ。その基本的な姿勢は、野生動物を撮るときとなんら変わるところがない。よい写真を撮りたいと思ったら、「まずは観察からだよ、撮りたい動物 をよく見ること」。
最近は誰を見ても、何に向けても、すぐケータイで写真を撮りたがる人が多いが、それはいったい何のためにやっているのか私にはわからない。人様だっていきなりシャッターを押されると嫌なように、動物もほんとは嫌なのだと私は思う。
岩合さんは「写真を撮らせてもらうということは……(自分も)ネコに確かめられているわけだから、ネコの立場や気持ちを考えながら行動しなくてはならな い」と言う。たしかに、撮りたい気持ちを抑えきれずに突き進むだけでは「私は撮られたくないのよ」とソッポを向かれるのがオチだろう。
野生動物 の撮影でも、いつも岩合さんがしていたことは「気配をあるいは自分の存在を消す」ということ。撮る側も動物と同調する時を静かに待つ、ということなのだと 思うが、そうすることで被写体も安心して本来の姿を見せてくれるのだろう。またそうしないと、お互いの緊張感や不快感は必ず写真に映り込んでしまうものな のだ。
岩合さんは提案する。「ネコが車のボンネットの上を歩いて、ネコの足跡がついたと怒るヒトがいる。ネコの足跡がついたら今日の一日は楽しくなる、なんだか愉快だなと思わないと、ネコと、ヒトと、ひいてはすべての生き物との共存は難しい」と。
また「ヒトの暮らし方、考え方によって生まれる色気がある。元々、自然界がもっている色気というものがある。それをなぜ人間の都合で壊すのか。色気を踏まえた視点を持って生活をしていると、おのずとそれが写真に反映されているはずだと信じている」と。
岩合さんは、写真を見ていただいた方に褒められて一番嬉(うれ)しいのは「色気がある」という一言だそうだ。いえいえ、岩合さんは色気だけではなくて、か なりのユーモアの持ち主です。それが本書からよく伝わる。すなわち、写真とは撮る人そのものを映し出すものなのだろう。
2012年7月11日水曜日
asahi shohyo 書評
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