瓦が語る日本史—中世寺院から近世城郭まで [著]山崎信二
[評者]山形浩生(評論家) [掲載]2012年07月29日 [ジャンル]歴史
■マニアックに奥深く楽しい歴史
瓦なんて似たり寄ったりと思ったら大間違い。東大寺や法隆 寺の修復だけ見てもいろんな地方の瓦があって、それが当時の物質流通をも物語る! さらに、製法ばかりか瓦職人がいろいろコッソリ落書き(ヘラ書き)して いて、そこから職人の個性や勢力、家系までわかり、さらに同じ建物で使われた瓦の出自から、職人集団の活動まで読み取れてしまうとか。
マニアッ クな世界を描きつつ、瓦にそこまで奥深い世界があったのかと感心させられる。文明論じみたお説教もなく、瓦だけに注目。職人の中でもだれが落書きできるか という力関係があったが、やがて瓦製造と瓦葺(ぶ)き作業の分業と合理化に伴いそうした楽しい落書きも廃れたとか、パソコンソフトの隠し機能の歴史にも通 じる物作りの発展段階がここにも見られる。
著者の瓦研究は本書で打ち止めとのことで残念だが、興味がある向きは、古代瓦についての同著者の本も興味深いはず。
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吉川弘文館・3360円
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著者:山崎信二/ 出版社:吉川弘文館/ 価格:¥3,360/ 発売時期: 2012年06月
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