冤罪と裁判 [著]今村核
[文]青木るえか [掲載]2012年07月06日
■警察より"悪意のない証言者"が怖い
まあ、あとからあとから紹介される冤罪のひどいこと。いったん「お前がやったんだろう」と警察に思われたが最後だな、と絶望的な気分になる。
何かの本で「警察に捕まった時、もしやっていたらただちに自供せよ。もしやっていなかったら完全黙秘」というアドバイスがあって、アリバイを述べても、そ んなもん述べたそばから警察に証拠隠滅されて立派な犯罪者に仕立てられるというのだが、この本を読んでるとそれもウソではないと思わされる。
取り調べの苛烈さもすごい。すごくリアルだったのが、腰の具合が悪い被疑者が前傾したイスに座らされて辛かったっていう話。ボロい、前に傾いているパイプイスに座った時のイヤな感じ! 取り調べでそんなイスに座って「動くな!」とか怒鳴られるって、どんな拷問だよ。
と、警察へは充分に怖ろしさを味わうが、もっと怖ろしいのは「悪意のない証言者」だ。この本にも、たくさんの「目撃者」が裁判で冤罪に荷担するような証言 をする様が紹介される。証言者に、陥れようなんて気持ちはない。ただ、人の記憶は時間とともに変わっていく上に、他人による誘導で「犯人はあの人だった」 と、犯人じゃない人を見て言ったりする。相手に「違う!」と言われると、自分を否定された気持ちになって頑なになり、かすかな不安があっても、いや、不安 があるからこそ断言しちゃったりするのだ。
警察が冤罪でも犯人を仕立て上げるのは、まあ一種の商売で、出世にも繋がるわけだから気持ちはわかる。しかし証言者たちはそれで出世するわけでもない。
冤罪事件があるたびに、私はすぐ「自分も冤罪で捕まる」ことばかり想像してしまう。取り調べになったら確実に「私がやりました」って言っちゃうだろう。警察に見込まれたらそうなること必至だ。とにかく取り調べの全面可視化は急務である。前傾イスはキツイですよ!
この記事に関する関連書籍
著者:今村核/ 出版社:講談社/ 価格:¥840/ 発売時期: 2012年05月
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