山伏と僕 坂本大三郎さん
[文]鈴村綾子 [掲載]2012年07月01日
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■そのままの自分を生きること
山伏は「職業」ではない、のだそうだ。あえて言うなら「アイデンティティー」。
主な収入は絵や文章をかいて得ている。自身の体験をもとに「山伏とは何か」を考えたこの本の挿絵と版画も手がけた。
6年前、友人から聞いて、三大修験道場として知られる山形県羽黒の宿坊「大聖坊(だいしょうぼう)」がおこなう山伏修行に、「面白そう」と、予備知識もなく1人でふらりと参加した。
白装束をまとった行者は、象徴的に死に、母なる山の中で胎児となり、再び生まれる。修行では、わずかな食事しかとらず、険しい山道を歩き、トウガラシや米ぬかなどの入った煙でいぶされ、滝に打たれる。
「僕、体力がないし、高所恐怖症で、煙アレルギーで」。だから修行は楽ではなかった。「でも、よくわからないけど、なんだかおもしろかったんです」。山歩 き後に腹ぺこで食べるたくあんのおいしさ。夜、山から街の明かりを見おろしたときに、日常が遠ざかり、死者になったように感じたこと。
その後、 山伏が自然と人間を結び、芸術や芸能とも深く関わる存在だと知る。芸術をなりわいとする自分と共鳴しているように思え、本格的な修行にも参加するように。 山伏の受け継ぐ日本古来の思想を学び、山で過ごす中で気づいたことがある。身体感覚を大事にし、良しあしを分けず受け入れることで得られる「生を肯定し楽 しむ知恵」だ。
「週末に友だちとお酒を飲んだりする、毎日の生活の中でそのままの自分を生きること。それが僕にとっての山伏であり、日本文化の原点だとも思えるんです」
◇
リトルモア・1365円
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著者:坂本大三郎/ 出版社:リトルモア/ 価格:¥1,365/ 発売時期: 2012年04月
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