2009年5月13日水曜日

asahi shohyo 書評

壊れゆく地球—気候変動がもたらす崩壊の連鎖 [著]スティーヴン・ファリス

[掲載]2009年5月10日

  • [評者]小杉泰(京都大学教授・現代イスラーム世界論)

■連鎖的に進む破滅を強く警告

  地球温暖化が世界の環境を悪化させ、私たちの暮らしを脅かしている。そのことは周知となっているが、本書はいっそう強く警笛を鳴らしている。世界の各地を 取材した著者は、温暖化によってやがて壊滅的な事態が生じるのではなく、もうすでに破滅が連鎖的に進んでいると警告する。

 温室効果ガスは長い歴史の間、太陽熱を地表に保持して、人類の暮らしを守る働きをしてきた。ところが、近代の産業活動や生活はガスを必要以上に増やし、気温上昇から気候変動が起こった。そして崩壊の連鎖が始まった。

 ハリケーンや洪水の発生回数と規模が増大し、環境災害による難民が増える。熱帯病が暖かくなった地域に急速に広がる。北極の氷 が解けて海底の資源の争奪戦がおこる。国際的な注目を集めているスーダンのダルフール紛争も、気候変動で土地が失われ、遊牧民と農民の共存ができなくなっ たことが根本原因である。それに政治的な人災が加わって、悲劇が生じた。

 気候変動の破滅的な効果は、弱い人々に襲いかかる。発展途上国では社会がもろくなり、犠牲者が増える。先進国は当分、それほどの苦痛を味わうことはない。だからといって行動しなくていいのか、と著者は問う。

 驚くべきは、現在の気温上昇は半世紀も前に放出されたガスの結果であり、この瞬間に出されているガスの効果もこれから何十年も 続くということだ。言いかえると、今から急いでガス削減に取り組んでも、気温上昇はすぐには止まらない。ある水準を超えてしまうと二度と元には戻れない可 能性も高い。

 現在国際的な交渉が続いているガスの削減案や私たちのエコの取り組み程度ではとても間に合わない。世界のガス排出は加速しており、破滅への連鎖が音を立てて回っているのである。著者は、残された時間はもはやない、という。

 本書の見通しは悲観的すぎると思いたい。しかし、地球が悲鳴をあげているとすれば、その声に真剣に耳を傾ける時は来ている。

    ◇

 藤田真利子訳/Stephan Faris ローマ在住のジャーナリスト。発展途上国が専門。

表紙画像

壊れゆく地球 気候変動がもたらす崩壊の連鎖

著者:スティーヴン・ファリス

出版社:講談社   価格:¥ 1,890

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