2009年5月9日土曜日

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元の持ち主どんな人 書き込み残る古本「痕跡本」が人気

2009年5月7日3時8分

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写真:書き込み満載の「痕跡本」の数々=愛知県犬山市薬師町書き込み満載の「痕跡本」の数々=愛知県犬山市薬師町

 書き込みが残る古本を「痕跡本」として売っている古書店がある。愛知県犬山市薬師町のアートスペース、キワマリ荘に昨年開店した「五つ葉文庫」。普通なら嫌われる傷本だが、手にとって見つめるうちに、元の持ち主が目に浮かんできて楽しくなる。確かに痕跡本は面白い。

 店主は春日井市に住む古沢和宏さん(29)。名古屋造形芸術大(現・名古屋造形大)に在学中から古書即売会で掘り出し物を探すのが好きだった。やがて、 「大切に読みこまれた本には持ち主との物語が刻まれている」と気づき、書き込みや汚れが残る本を痕跡本と名付けて集めるようになった。

 普通の本とは区別して本棚に置かれた痕跡本20冊は、主に名古屋の古書店を歩き回って入手した。どれにも魅力たっぷりの痕跡が残る。

 たとえば大月書店の国民文庫『空想から科学へ』。1960年に出た共産主義の基本文献は、とじ糸がほつれ、メモと傍線が全ページを埋める。政治の 季節の熱気に打たれた学生の姿をほうふつさせる逸品だ。司馬遼太郎の『ロシアについて』は巻末に読了日をしめす日記風の書き込み。「昭和六十一年八月五 日。昨四日台風十号、福島、仙台に被害を与えて去る」。太宰治の新潮文庫『津軽』には、「たいくつなりし本なれど、故郷は良いなあ」と奥付に鉛筆で一言書 かれていた。

 珍妙なものでは、芥川賞作家堀江敏幸のデビュー作『郊外へ』。お金の貸借をメモしたらしい「3000」の数字と携帯電話番号が巻末に。書き込みが全くない代わりに、やたらとページの隅が折られた『異星人との対話』というのもある。

 本と持ち主の関係に思いをめぐらす古沢さんの達意の文章が1冊ごとに添えられている。売値は4500円から8万円。相当に高めだが、「初版本や希 少本に高値がつくように、痕跡本の価値も評価されるべきだ。痕跡の重みや面白さを自分なりに評価した価格です」と話す。営業は毎週土、日の午後1時から午 後7時まで。問い合わせは、古沢さん(090・4195・2851)へ。(佐藤雄二)



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