2009年5月5日火曜日

asahi shohyo 書評

グローバリゼーション 人類5万年のドラマ(上・下) [著]ナヤン・チャンダ

[掲載]2009年4月12日

  • [評者]松本仁一(ジャーナリスト)

■底なしの欲望が作り上げた歴史

 約5万年前にアフリカを旅立った人類の祖先は、東南アジア、中央アジア、ヨーロッパ、シベリアへと広がり、約1万4千年前に南米大陸の南端に到達して「地球征服」を完了した。それがまず最初の「グローバル化」ということになる。

 その後、人はそれぞれの地域間の距離を縮めようとすることで歴史をつくりあげてきた、と本書はいう。いわば「グローバル化史観」である。

 4千年前はメソポタミアのロバだった。ロバは1日に約30キロの移動がやっとで、行ける範囲は限られた。しかしラクダを家畜化することで、人間の行動範囲は一気に広がる。それがシルクロードの形成につながった。

 続いて帆船。モンスーンの発見で、インドとローマ帝国の往復はわずか3カ月に縮まる。そして蒸気船の登場により、大西洋と太平洋は「池」になった。

 現在はジェット機とインターネットである。国際資本はより安い原料と労働を求めて世界をさまよう。糸はインド、織りは中国、仕立てはベトナム、という具合だ。ついには「メード・イン・プラネットアース」というコピーまで登場する。

 著者はインド人ジャーナリスト。膨大な資料をもとに本書を書きあげた。メソポタミア商人の妻が「隣が大きな家を建てたけど、う ちはいつ?」と書き送った手紙とか、キムチの唐辛子が、秀吉の軍隊によって朝鮮に持ち込まれたとか。上下2巻だが、具体的な史実が多く、訳文もいいので読 みやすい。

 グローバル化がもたらしたものは富の偏在だ。米国企業の幹部は一般的な米国労働者の170倍もの報酬を手にし、一方で途上国の貧困者はさらにその貧困の度合いを増している。しかし今さら動きは止められない。著者は、国連に力を与えて対応させるべきだと訴えている。

 グローバル化を担ってきたのは「貿易商、布教師、戦士、冒険家」だというのがこの本の柱だ。しかし、そこまで型にはめる必要はなかったのではないか。あらゆる人間の底なしの欲望と野心がこの状況をつくり出したのだ。

    ◇

 友田錫・滝上広水訳/Nayan Chanda 46年生まれ。

表紙画像

グローバリゼーション 人類5万年のドラマ (上)

著者:ナヤン・チャンダ

出版社:エヌティティ出版   価格:¥ 2,730

表紙画像

グローバリゼーション 人類5万年のドラマ (下)

著者:ナヤン・チャンダ

出版社:エヌティティ出版   価格:¥ 2,520

0 件のコメント: