アラブで発禁『蜜の証拠』のネイミさん 「西洋との橋渡しを」
2010年9月28日
パリで暮らすアラブ女性の性愛を描き、アラブ世界のほとんどで発禁処分になりながら、イタリアなどでベストセラーになった小説がある。国際ペン東京大会に あわせて来日したシリア生まれの作家サルワ・アル・ネイミさんの『蜜の証拠』(斎藤可津子訳、講談社)だ。からだを通して、本来自由であったはずのイスラ ム文化の本質を明かしていく。
アラブの古典性愛書に出会い、読みふけるようになった図書館司書が、それをともに試した〈思想家〉と呼ぶ男性との関係を告白し ていく物語。2007年にレバノンでアラビア語で刊行され、すぐにフランスの出版社などから翻訳の申し出があった。アラブ世界各地で発禁になってからは、 インターネットなどでダウンロードされてひそかに読まれているという。
「発禁の理由も発禁になったという処分自体も明らかにされてはいません。エロチックな描写だけが問題になったのではないと思っています」
ネイミさんは作中で主人公にこう述べさせる。〈言うのも書くのもためらわれる言葉を連発する先人たちの奔放さに、わたしは圧倒 された。ドキドキするような言葉遣いに、一行も読まないうちにわたしは濡(ぬ)れた。外国語ならこんな反応はなかっただろう。わたしに言わせればアラビア 語はセックスの言語だ〉
「私はパリのアラブ世界研究所に所属していて、実際にイスラムの古典性愛文学を研究していますが、その自由さと奔放さには驚か されます。女性にベールをかぶせたり性愛を抑圧したりするのは、あくまで政治的な支配のために行われていることで、もともとのアラブ・イスラム文化にあっ たことではないと思います。発禁になったのは、性愛から表現の自由などに広がっていくことが問題視されたのではないでしょうか」
性愛について語ることが政治的、社会的な緊張を生むことを理解した上で、周到に作られた物語になっている。主人公が告白を書きだすのは、9・11テロで高まったアラブやイスラムへの関心に応えるための米・仏での《禁断の書物》の展覧会やシンポジウムの準備のためだった。
「アメリカやヨーロッパでアラブ社会について語られていることが、実像とは離れていると感じていました。アラブ世界には自由で豊かな文化的世界があることを伝えたかったのです」
アラブ世界の真実を伝えることは、アラブ世界に住む読者にとっても衝撃だった。「この本は私たちを私たち自身のからだと仲直りさせてくれるものだと言った人もいました。西洋とアラブ文化、それぞれの断絶を埋める橋渡しになっていればうれしい」(加藤修)
- 蜜の証拠
著者:サルワ.アル・ネイミ
出版社:講談社 価格:¥ 1,890
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