2013年3月1日金曜日

asahi shohyo 書評

マックス・ウェーバーの日本 [著]ヴォルフガング・シュヴェントカー

[評者]柄谷行人(評論家)  [掲載]2013年02月24日   [ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝 

表紙画像 著者:ヴォルフガング・シュヴェントカー、野口雅弘  出版社:みすず書房 価格:¥ 7,875

■ドイツ以上になぜ読まれたのか

 本書は、日本のウェーバー研究の内容を、大正時代から現在に いたるまで詳細に検討するものである。実は、ウェーバーは日本で、ドイツで以上によく読まれてきた。にもかかわらず、日本人のウェーバー研究はドイツでほ とんど知られていなかった。したがって、本書がドイツの読者にとって役立つことは当然であるが、日本人にとっても、いろいろと考えさせる事柄を含んでい る。
 日本は、非西洋圏で唯一、近代資本主義国家となった。その理由を問うために、日本人は特に、ウェーバーの理論を必要としたといえる。しか し、ウェーバーが広く読まれるようになったのは、1930年代、天皇制ファシズムが席巻し、マルクス主義運動が壊滅した時期である。ウェーバーの理論が必 要となったのはその時である。では、ドイツでは、どうだったのか?
 その点に関して、著者は、興味深い出来事を記している。この時期、ドイツで は、マルクスやウェーバーを読むことが全面的に禁止されたが、日本ではある程度、学問の自由が保持された。その結果、ユダヤ系の哲学者レーヴィットが日本 に亡命し、東北大で教えた。彼の書いた『ウェーバーとマルクス』がよく読まれ、日本のウェーバー・ブームの発端となった。一方、ドイツでは、ウェーバーは 忘れられた。ウェーバーに対する態度の差異は、ここから生じた。
 日本でこの時代からウェーバーが読まれたのは、根本的に、マルクスを補うためで あったといってよい。戦後でも、事情は同じである。たとえば、大塚久雄や丸山真男は、ウェーバーを掲げてマルクス主義を批判しているように見える。が、彼 らは自分らこそ真にマルクス的だと考えていたのである。ウェーバーが日本で広く読まれたのは、そのような思想家がいたからであって、「ウェーバー研究者」 のおかげではない。
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 野口雅弘ほか訳、みすず書房・7875円/Wolfgang Schwentker 53年、ドイツ生まれ。大阪大学教授。

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マックス・ウェーバーの日本 受容史の研究1905-1995

著者:ヴォルフガング・シュヴェントカー、野口雅弘/ 出版社:みすず書房/ 価格:¥7,875/ 発売時期: 2013年01月

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ウェーバーとマルクス

著者:レヴィット,K.、柴田治三郎、脇圭平/ 出版社:未来社/ 価格:¥1,890/ 発売時期: 1966年

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