2013年3月23日土曜日

asahi shohyo 書評

教室内カースト [著]鈴木翔 [解説]本田由紀

[文]斎藤環(精神科医)  [掲載]2013年03月17日

■教師すらも逆らえない

 現代の教室空間には、歴然たる"身分制(カースト)"がある。上位グループはクラスの主導権を握り、主張を押し通すことができる。いっぽう下位グループは、周囲から軽蔑され、声を上げても黙殺される。
 すでに漫画や小説では繰り返し描かれてきたこの"身分制"については、それが時に「いじめ」や「ひきこもり」の要因となることもあって、すでにいくつかの分析もあるし、私も問題視してきた。
 しかし意外にも、このインパクトある言葉をタイトルにした書籍は本書が初めてだ。筆者は東大の大学院生。学生や教師を対象としたアンケートやインタビュー調査に基づく研究をもとにして本書は書かれている。
  研究者らしからぬフワフワした文体だが、内容は深刻だ。本書によれば教室内のグループ間の格差は、中学以降に顕著なものになる。上位と下位の関係は固定的 で、上位グループは多くの特権に恵まれ、楽しい学校生活を享受できる。対照的に下位グループの生徒の学校生活は、惨めなものになりやすい。一般に、にぎや かで気が強く異性にモテる生徒は上位に、地味で受け身で目立たない生徒は下位になりやすいという。
 中でも衝撃的なのは、教師すらもこの身分制に は逆らえない、という事実だ。調査の結果、教師の側も、スクールカーストの存在を認識し、しかも肯定的に捉えていることがわかった。上位の生徒と仲良くし ておく方が、クラス運営が格段にやりやすくなるからだ。なるほど「個より集団」という価値観は、かくして生徒と教師が一丸となって育まれるわけだ。
 本書における問題提起は、十分に成功している。次回作ではぜひとも、その対策にまで十分に踏み込んだ分析を期待したい。
    ◇
光文社新書・882円=7刷5万部

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著者:鈴木翔、本田由紀/ 出版社:光文社/ 価格:¥882/ 発売時期: 2012年12月

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