補陀落 観音信仰への旅 川村湊さん
[文]依田彰 [掲載]2004年01月25日
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■信仰のため命を捨てるな
紀州熊野の観光の途中、那智勝浦の明るい海に近い補陀落(ふだら く)山寺に立ち寄ったことがある。境内の片隅にリアルな渡海舟があった。二度と戻れぬこの「ウツボ舟」に乗りこみ、補陀落(観音浄土)を求めて沖に出て いった中世の日本人渡海僧たちの発心(ほっしん)とは、どのようなものだったのか。
日本の観音信仰のもっとも核心にあったもの——それをこの著書で、文芸評論家で法政大学教授の川村湊さんは教えてくれる。
川村さんは数年来、日本をはじめ、韓国の洛山寺や中国の普陀山など、東シナ海に点在する観音信仰の霊場を巡り、東アジアに広がる観音信仰の姿を研究してきた。
「マリア観音や摩耶夫人(まやぶにん)も、中国の娘々(ニャンニャン)神、台湾の媽祖(マソ)、琉球弧のヲナリ神も、観音信仰がそのベースにあります。観音菩薩(ぼさつ)とは、救いを求める民衆に合わせて変化し救済してくれるものなのです」
ところが、日本の中世の補陀落渡海は「誰かや何かのためではなく、自分のためだけに生き、自分のためだけに死ぬ」自殺行だった。キリシタン宣教師の記録では、渡海僧は観音浄土の存在を確信し、喜んで水に飛び込んでいったという。
その「絶対的な自力による救済の世界」は、キリスト教が日本人にもたらした「自己犠牲」の精神とはまったく異なるものだった、と川村さんは話す。
「この本で伝えたかったのは、イデオロギーのため、信仰のために自らの命を捨てるのはいけない、ということ。それは、現在のパレスチナやイスラムの自爆テロなどに対する私なりの答えでもあります」
次のテーマは「弥勒(みろく)信仰への旅」になるという。川村さんは現在、研究のための長期休暇で韓国に滞在している。短い帰国の合間に、壮絶な光と闇の世界を見せていただいた。
(作品社・2200円)
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