昨日までの世界(上・下)−文明の源流と人類の未来 [著]ジャレド・ダイアモンド [訳]倉骨彰
[文]朝日新聞社広告局 [掲載]2013年03月20日
■人類は600万年の歴史で、何を手放し、何を得たのか
毎日満腹になるまで食べ、襲われる心 配をせずに眠り、年を取っても山奥に遺棄されることはない。我々が当たり前に享受するこうした暮らしは、600万年の人類の歴史の中に位置づければ、つい 一瞬前に生じた大変化に過ぎない。著者は、約1万年前に定住型の農耕社会に移行するまでの人類社会を「昨日までの世界」と呼ぶ。もはやニューギニアの高地 やアマゾン奥地、アフリカの熱帯雨林など都市文明との接触が遅れた伝統的社会にのみ、色濃く残る生活様式である。
本書は、伝統的社会の調査や文 献を通し、共同体のあり方や、子育て、高齢者への対応、宗教など、人間社会の諸側面の歴史を再検証した労作である。著者の立場は、人類が手放してしまった ノスタルジーや伝統的世界への憧憬(しょうけい)ではない。というのも、国家が誕生したことで戦争が減り、食料生産は安定し、幼児の死亡率は減少した。社 会は進化したのである。その一方で、過去の世界に学ぶべきではないかと著者は警鐘を鳴らす。前著『銃・病原菌・鉄』と同様、進化生物学、人類学、生物地理 学、遺伝子学などの学問分野を横断した、知的探求心を満たす意欲作である。
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