続・祈りの彫刻—リーメンシュナイダーを歩く [著]福田緑
[文]北澤憲昭(美術評論家) [掲載]2013年03月03日
|
リーメンシュナイダーは15、16世紀のドイツを代表する彫刻家で、同時代人にデューラー、クラナッハらがいる。この時代はイタリア・ルネッサン スの最盛期にあたるが、ドイツは中世の後期に位置していた。いってみれば花ひらく近代の春と実り多き中世の秋を、すなわちズレを含んで相通じ合う時代を、 イタリアとドイツは、それぞれに過ごしていたわけだ。
バイエルン地方の都市ヴュルツブルクに工房を営んだこの彫刻家は、市政にもたずさわって、市長に選ばれもしたのだが、ドイツ農民戦争にさいして、農民側に加担したため逮捕され、失意のうちに最晩年をすごすことになる。
美術史家でもあった美術評論家の土方定一はかつて、心情に濾過(ろ・か)された写実の意識がリーメンシュナイダーの彫像に「哀愁」をもたらしていると書い たが、彫像がまとうこの感情は、彫刻家の晩年をも彩っていたのだ。それはまた、中世の秋が深まるなかで密(ひそ)やかに熟しはじめた近代の意識に由来する ものといえるかもしれない。
本書は、写真によるリーメンシュナイダーへのオマージュであり、2008年に出た『祈りの彫刻』の続編にあたる。た だし、前著の写真のほとんどが著者以外の撮影によるものだったのに対して、このたびは著者自身の写真がふんだんに盛り込まれ、カラー写真も格段に多い。彫 像と著者の思いが映発する写真はどれも静かな情感をたたえている。
巻末には所在地までの交通機関や道筋が懇切にしるしてある。本書は、読者を彫刻の旅へといざなうガイドブックでもあるのだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿