2013年3月15日金曜日

asahi shohyo 書評

坂本龍馬の真実 船中八策は虚構か?

[文]宮代栄一  [掲載]2013年03月04日

剣術修行の道/脱藩から神戸海軍操練所への道/亀山社中と薩長同盟の道/新婚旅行と「船中八策」の道 拡大画像を見る
剣術修行の道/脱藩から神戸海軍操練所への道/亀山社中と薩長同盟の道/新婚旅行と「船中八策」の道

表紙画像 著者:知野文哉  出版社:人文書院 価格:¥ 2,730

 犬猿の仲の薩摩と長州を仲介して薩長同盟を成立させ、大政奉還を献策した幕末の志士・坂本龍馬。明治維新の立役者とされてきた龍馬像に近年、研究者から疑問の声があがっている。
  坂本龍馬は1835年、土佐・高知で、郷士・坂本八平の次男として生まれた。やがて脱藩して勝海舟の弟子となり、海軍操練所に出入りしたり、日本初の貿易 商社といわれる亀山社中を結成したりするかたわら、薩長同盟を仲介。明治政府の骨格となる船中八策を考え、大政奉還を献策するなど、幕末の政治に大きな影 響を与えたとされる。
 小説やドラマなどでは、大志を抱く、人好きのする人物として描かれることが多く、姉・乙女あての手紙に記された「日本を今一度せんたくいたし申候」は、龍馬の決意を示したフレーズとして知られている。
    ◇
 だが、こうした龍馬像に対しては近年、異論が相次いでいる。
 まず薩長同盟。討幕軍事同盟と言われてきたが、佛教大学教授の青山忠正さん(明治維新史)は「一次史料を読む限り、内容は薩摩藩が朝廷に長州藩主親子の官位停止の撤回を働きかけるという支援表明。討幕うんぬんは無理がある」と話す。
 「会談も、坂本が発案したというより、薩摩の意を受けたエージェントとして動いたのだろう。両藩とも重要な交渉は正規の藩士が行っており、坂本はその下働きに過ぎなかった」
 大政奉還についても、「坂本がそうした考えを持っていたことは否定しないが、1867年ならば当たり前の考え方。独創とは言えない」と指摘する。
 龍馬が船で考えたという建議案・船中八策も、知野(ちの)文哉著『「坂本龍馬」の誕生』によると、原本も写本もなく、書物によってばらばら。明治以降に書かれた龍馬の伝記の中で作られた虚構と考えられるという。
  さらに「日本をせんたく」のフレーズも、横井小楠(しょうなん)記念館・四時軒(しじけん)(熊本市)館長の松原英明さんは「福井藩主・松平春嶽(しゅん がく)の政治顧問を務め、龍馬と何度も面会した横井小楠の口癖であり、それを手紙を書く際に借用した可能性が高い」と話す。
    ◇
 これに対し、龍馬の手紙140通を検討した京都国立博物館学芸部企画室長の宮川禎一さんは「色々な意見があるが、手紙からは、龍馬が薩長同盟成立を非常に大きな仕事と考えていた節がうかがえる」と主張する。
  「証拠」としてあげるのは、めいの春猪(はるい)と脱藩浪士・池内蔵太(いけくらた)の家族にあてた手紙だ。「いずれも同盟成立直後に書かれたと考えられ るが、春猪のあばた面をからかう一方、池の家族には過去の脱藩を真剣にわびている。龍馬は自らの仕事についてほとんど書き残していないが、この2通は大仕 事をやりとげた満足感から来る懐旧の情と、解放感が書かせたものと思う」
 事績の評価は別として、龍馬が魅力的な人物だったことは確からしい。手 紙からは冗舌で気さくな人柄が透けてみえる。青山さんも「周旋の才はあったろう」と認める。「男女5人きょうだいの末っ子で、叱られ、愚痴を聞かされるの に慣れていた。その経験が険悪な薩長の仲介に役だった」と宮川さん。
 時に文句を言われながらも、皆に愛され、深く記憶に刻まれた人物。その「永遠のアイドル性」こそが、龍馬像をここまで大きくした遠因と言えるだろう。
 ◆読む
 龍馬の手紙文の魅力を余すことなく伝えてくれるのが、宮川禎一『全書簡現代語訳 坂本龍馬からの手紙』(教育評論社)。知野文哉『「坂本龍馬」の誕生』(人文書院)は、船中八策の成立過程を追いかける。

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