2010年7月14日水曜日

asahi shohyo 書評

日本の聖域(サンクチュアリ) [編]「選択」編集部

[掲載]週刊朝日2010年7月16日号

  • [評者]永江朗

■海外の新薬認可に4年もかかっている!

 「選択」編集部編『日本の聖域(サンクチュアリ)』は、無駄や利権の温床を追及した本である。しかも記者クラブで飼いならされた大 手マスコミはめったに取り上げない分野。まさに聖域だ。「選択」は会員制の直販情報誌で、一般の書店では売られていない。薄いがとても密度の濃い雑誌だ。 本書は同誌の名物連載から26本を選りすぐった。登場するのは入国管理局からパチンコ業界、ペット市場、日銀、交通安全協会などさまざま。ニッポンのあら ゆるところに「聖域」がある。

 そうそう、いま話題の日本相撲協会も一章が割かれている。サブタイトルは「何から何までカネカネカネ」。これを読むと、力士が バクチをするのは、けっして特殊なことではないとわかる。

 はらわたが煮えくりかえるような章も多い。相撲協会がどんなに堕落しようと、そんなことはどうでもいい。だが、たとえば人工透 析ビジネスは許せない。腎臓を悪くして人工透析を受ける人が増えている。ところが事態の背景には医者が患者を積極的に透析に向かわせている側面もあるとい う。病院にとって透析はとてもうまみのあるビジネスだからだ。

 「ドラッグラグ」もひどい。海外で開発・承認された新薬が、自国で認可されるまでの時間差である。売り上げ上位の薬の平均で、 日本は4年近く。アメリカは504日なのに。海外では治るかもしれない病気が、日本では黙って死んでいくしかない。しかも、治せる薬が海外にはあると知り ながら。なぜ日本のドラッグラグが大きいのか。厚労省の新薬承認審査が遅いからだ。審査を担当する人員数も少ない。医療費削減方針のもと薬価が低く抑えら れているので製薬会社も積極的でないというのだ。国が国民の命を守ろうとしないのなら、国民は税金などびた一文だって払う義理はないぞ。

 パチンコ業界や交通安全協会など、警察利権についての章も実に興味深い。東京高等裁判所の章もあわせて読むと、この世に正義な ど存在しないと思えてくる。

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