2010年7月14日水曜日

asahi shohyo 書評

昆虫の迷路 [著]香川元太郎 [監修]小野展嗣

[掲 載]週刊朝日2010年6月25日号

  • [評者]長薗安浩

■大人を巻き込む絵とアイデア

 香川元太郎の『昆虫の迷路』は、累計で125万部を突破した絵本、「迷路」シリーズの第7弾。迷路を進みながらテーマに関する知識 を身につけられるのがシリーズの特長で、これまでに、時、文明、自然遺産、進化、伝説といったテーマを扱ってきた。

 今回の昆虫は、犬を散歩させていた子どもたちが、アリでできた「チョウをおせ」という文字に出くわすところから始まる。しか し、一見しただけではチョウは見つからない。そこで目をこらすと、扉近くの壁にうっすらとチョウがいるではないか。こうしてこの絵本のもう1つの仕掛け、 隠し絵探しの面白さを少し味わってページをめくれば、そこには左右2ページにわたって描かれた迷路、〈秘密の虫穴〉が待っている。

 迷路は全部で12あり、実際にやってみると、正しいルートを見出すことはさほど難しくはない。探し物クイズも、細密に描かれた 絵をじっくり見ていけば無理なく解ける。おそらくは小学校低学年向けに制作された内容だから、おっさんの私が簡単にできるのは当然なのだが、隠し絵探しに は苦労した。

 草木の模様や影、同系色の葉の重なりなどを活用したもの、大胆な相似形を使ったものなど、いくら探しても見つからない絵がいく つもあった。〈ゲンゴロウの池〉と〈スズムシの夕暮れ〉では特に手こずり、絵を探すうちに、それまでは知らなかったツノゼミやオオボクトウを覚えてしまっ た。

 ゲーム感覚で昆虫の名前や形状、生息環境や時期まで知ることができるこの本。昆虫が身近にいない都会の子どもや虫嫌いの子ども には、未知の世界を垣間見る1冊となるだろう。親子そろって楽しめる工夫も満載だ。

 もとより絵本は親が子どもに買い与えるものだから、大人をも巻きこむアイデアと絵の魅力をもった「迷路」シリーズは強い。この 『昆虫の迷路』も、夏休みが近づくにつれてますます売り上げを伸ばすに違いない。

表紙画像

昆虫の迷路

著者:香川 元太郎

出版社:PHP研究 所   価格:¥ 1,365

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