2010年7月14日水曜日

asahi shohyo 書評

エコ・テロリズム—過激化する環境運動とアメリカの内なるテロ [著]浜野喬士

[掲載]週刊朝日2010年7月16日号

  • [評者]青木るえか

■シー・シェパードの思想はウナギのタレ状 態

 シー・シェパード。ガンガンやっている。すごいパワーである。

 身近にクジラやイルカで生計を立てている者もいないので他人事だというのもあるが、「クジラやイルカを捕るのをやめて消える文 化なんか別に消えたってよかろう」と考えているので、シー・シェパードの皆さんへはそれほど悪い感情はない。ただ、前から疑問だったのは、たとえば沖縄の 米軍基地とかで「サンゴの海が失われる!」という時に、グリーンピースやシー・シェパードが米軍に突撃した、という話は聞こえてこない。そのへんがどう なってるのか、誰か詳しく教えてくれないものかと思っていた。

 それでその手の本を何冊か読んでみた中でいちばん面白かったのがこれ。謎が解明されたというよりも、アメリカ由来の過激環境保 護運動の成り立ちをとても詳しく(元になった小説とか、最初に立ち上がった人びとのプロフィールとか、その後どんな分裂や集散があったとか)、しかし私情 を交えず書いてあるので面白い(というか興味深い)。シー・シェパード物の本には、怨念をこめてシー・シェパードや環境保護運動を左翼と決めつけて事たれ りとしてる本もあって、そこで満足されちゃ読むほうはつまらないんだよと思ってたけど、本書を読んでいると過激環境保護運動は一口で左翼なんて言えるもの では到底ない。オカルトや宗教右派や愛国運動やフェミニズム、とぜんぶ混ざり合って熟成されたウナギのタレ状態である。一読した感じでは、日本における新 右翼の思想に近い感じ。それでまた、そういう思想(かつ過激な行動)団体に、著名人が大量の寄付をする。なんというか、大陸だぜ、と思わせてくれる。

 グリーンピースの来襲にフランスの漁民がモリで応戦して重傷を負わせたなんてニュースを聞くと、「ザ・コーヴ」の上映を配給会 社に文句つけただけで騒ぎの日本じゃ、こういう団体が誕生するのは到底ムリと思う。ま、日本にとっていいことなんでしょうが。

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