反権力・弱者の視点、皮肉な笑いに転化 つかさん死去
大分市つかこうへい劇団の芝居「売春捜査官」で、主演のチョン・ヒョナ(右)らに身ぶりを交えて指導す るつかこうへいさん(中央)=98年12月、大分市
10日になくなったつかこうへいさんは、学生運動が収束しつつあった1970年代の閉塞(へいそく)状況の中で、斬新な手法をひっさげて登場し、若者た ちの熱烈な支持を集めた。
当時の最年少で岸田戯曲賞を受けた「熱海殺人事件」(73年)は、刑事が大衆の求めるイメージに基づき、犯人像をねじまげてゆく過程を描き、通俗を逆用 したどす黒い笑いを醸し出した。
代表作「蒲田行進曲」(80年)は、新撰組の映画撮影で、しがない大部屋俳優がスター俳優に斬(き)られて階段落ちをする場面がクライマックス。弱者と 強者のいびつな関係をつづった。
つかさんの芝居は舞台セットの少ない裸舞台で、言葉が弾丸のように飛び交う。サディスティックとマゾヒスティックが攻守逆転し、感情を演技的に誇張する 高揚感を競い合うのが特徴だった。つかさんは台本なしの口だてでけいこし、アドリブから生まれた苦いユーモアに富むせりふを数多く残した。再演のたびに、 演じる役者の個性に合わせて大幅な改訂をほどこした。
その底辺には反権力志向と、無残さをてらう弱者の視点が貫かれていた。デビュー作「戦争で死ねなかったお父さんのために」や、学生運動の投石に美意識を 込めた「初級革命講座飛龍伝」など、屈折した心情を体制への皮肉な笑いに転化する手法がさえわたった。
90年に出版した「娘に語る祖国」で在日韓国人2世であることを公表した。デビューから長い間、そのことを作品上でもにおわせず、複雑な思いを現代的な 物語に昇華して描いた。(小山内伸)
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