2009年4月22日水曜日

asahi shohyo 書評

ソーシャルブレインズ—自己と他者を認知する脳 [編]開一夫、長谷川寿一

[掲載]2009年4月19日

  • [評者]耳塚寛明(お茶の水女子大学教授・教育社会学)

■人だけが持つ社会脳という迷宮

  「進化の隣人」と呼ばれるチンパンジーはどんな動物よりもヒトに近い能力を示すが、けっしてヒトの高みに達することはなかった。共感や教育などを可能とす る「社会脳」をチンパンジーは欠いている点が決定的なのだという。では、なぜヒトだけが社会脳という超能力を手に入れることができたのだろう。本書は、霊 長類研究、脳認知科学、発達心理学、ロボティクス研究などの多様な学問が、よってたかって社会脳のメカニズムに挑んだ最新の成果である。

 謎の壮大さに比して、各章で取り上げられているテーマはいたって"原始的"だ。鏡に映った自己像を自分だと認識できるようにな るのはいつごろか。自分でくすぐるとくすぐったくないのはどうしてか。他者が注意を向けている物や場所に、視線を向けることができるのはなぜか。そうした 問いをひとつひとつ解き明かしたその先に、社会脳のメカニズムがようやく仄(ほの)見えてくる。

 科学者たちの挑戦が始まっている。けれども、他者の心を理解し、共感する社会脳は、いまだ迷宮のままといってよい。

表紙画像

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