2009年4月2日木曜日

asahi shohyo 書評

場所はいつも旅先だった [著]松浦弥太郎

[掲載]2009年3月25日朝刊

■友達とは旅先で出会うものさ

  旅は、人に多くのことを教えてくれる。そして、多くのものを与えてくれる。「暮しの手帖」編集長であり、文筆家、書籍商としても知られる著者が、とくに欧 米への旅のさなかに出会った人々、ささやかな出来事をつづったのが本書である。紀行文がそのまま青春記と重なるほど著者と旅とは強く結ばれているとも言え る。

 舞台はニューヨーク、ロンドン、パリ、ロサンゼルスなどなど。映画のワンシーンのようなショートストーリーが50編ほど連なっていく。書店、カフェ、ホテルといった場所に足を踏み入れつつ、恋人や友人、旅先で出会った人たちとの交流が描かれる。

 中ほどに挟まれた少し長めの一編だけがトーンを違(たが)えている。18歳の秋に初めてサンフランシスコを訪れてから、何度も ビザを持たずに西海岸を放浪する著者。滞在期限が近づくと帰国し、アルバイトで金を貯め、再びアメリカへ渡っていた。ある時、ビンテージ・ジーンズを大量 に手に入れ日本へ送ったところ、思ってもいなかった額の報酬を手に入れる。その後、紆余曲折(うよきょくせつ)を経て書籍商となっていく過程が軽やかに、 乾いた文体で描かれるのだ。この日々が、旅の種子が芽吹いた瞬間だったのかもしれない。著者は書く。友達っていうのは旅先で出会うんだ、と。それこそが著 者にとっての、旅に出る理由なのである。

表紙画像

場所はいつも旅先だった (P‐Vine BOOKs)

著者:松浦弥太郎

出版社:ブルース・インターアクションズ   価格:¥ 1,680

0 件のコメント: