お葬式—死と慰霊の日本史— [著]新谷尚紀
[掲載]2009年3月25日朝刊
■葬式と慰霊の歴史を探る
「おくりびと」が、アカデミー賞を受賞して話題になっているが、そもそも日本人は、死をいかに考え、死者をどのように葬(ほうむ)ってきたのか。
死と弔(とむら)いの歴史を、葬式・墓・慰霊から、わかりやすく説いたのが本書である。
歴史を遡(さかのぼ)ると、縄文時代の三内(さんない)丸山遺跡では、集落の入り口に死体がきれいに埋葬されていた。古墳時代 までは、遺体と霊魂を畏(おそ)るべき怖いものとして祀(まつ)る時代であったという。平安時代に入ると洛中(らくちゅう)(都の中)には死体はけがらわ しいと考えられ、墓地は洛外(らくがい)に造営される。
その後、武士の登場により、遺体は大切にされ、菩提(ぼだい)を弔い供養が行われる。
やがて葬式と営墓が画一化され、墓石と位牌(いはい)が主要な装置となり、故人の名前が記憶され記念される存在となっていく。
歴史をたどるだけでも興味深いが、民俗学者の著者は、全国各地の様々な習俗や、散骨(さんこつ)、樹木葬(じゅもくそう)、お墓の変遷、さらに病院での死や葬儀社による葬式など、大きく変わってきている現代の多様な葬式の姿にも言及する。
後半では、日露戦争と太平洋戦争期に、人間の死を神として祀り上げていった「軍神(ぐんしん)」に視点をあて、その根源に迫る。
誰にでもやがて死は訪れる。死をどう受けとめるのか。死への向きあい方を考えさせられる一冊である。
- お葬式—死と慰霊の日本史
著者:新谷 尚紀
出版社:吉川弘文館 価格:¥ 1,575
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