人間のヨーロッパ中世 [著]堀越孝一
[文]朝日新聞社広告局 [掲載]2012年06月20日
■中世ヨーロッパを生き抜いた青春群像が今、よみがえる
著者は古典ともいうべきロングセ ラー、『中世の秋』の名訳で知られる。西洋史学界の泰斗だけに、本書は熟成したワインのような芳香を放つエッセーとなっている。スイスの修道院に伝わる平 面図に描かれた水車にはじまり、ドン・キホーテへと筆をすすめ、風車の発明へ、さらにはブリューゲルの作品へと著者は中世ヨーロッパを縦横無尽に歩みつ つ、のびのびとした筆致で人間たちを紹介する。挿図篇(へん)60ページなどもふくめて550ページを超える大著にもかかわらず一気に読ませるのは、丹念 な考証に加えて豊かな想像力が感じられるからだ。
第I部は、アベラールとエロイーズの恋の道行き、聖女ジャンヌ・ダルクなど、歴史の舞台を彩る 青春群像を描き出す。第II部では、一人の放浪学生の詩作を丹念な考証を通じて今の時代によみがえらせる。著者が浮き彫りにした若者こそは、中世ヨーロッ パの青春そのものであった。そして、本書後半にいたって著者は、フランソワ・ヴィヨンなる詩人は実在しなかったという、定説をもろともにくつがえす結論に たどりつく。優雅な読書の楽しみを与えてくれるエッセーといえるだろう。
0 件のコメント:
コメントを投稿