2012年6月28日木曜日

asahi shohyo 書評

僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか? [著]木暮太一

[文]速水健朗(フリーライター)  [掲載]2012年06月24日

表紙画像 著者:木暮太一  出版社:講談社 価格:¥ 903

■所得だけで裕福にはなれぬ

 いまどきの就職活動生が恐れているのは、安い給料で長時間労働を強いる"ブラック企業"だ。なのでNPO就職や自由に働くノマドに注目が集まる。
 会社を辞めたい若いビジネス層向けのビジネス書は、キャリアアップやパーソナルブランディングなどを煽(あお)り続けている。
 若年層の労働環境悪化は非正規問題やロスジェネ問題などとして取り上げられる機会も多いが、本書はそれらとはまったく違った角度で切り込んでいく。
 著者は、日本企業が採用する「必要経費方式」の給与は、「明日も同じ仕事をするために必要な分」を支払う仕組みだという。つまりは、飯を食い、寝て、毎日服を着替える。そういったための最低限の費用として賃金は与えられるのだ。
 そうであるならファストフードやユニクロがある現代で、給与が下がるのは当然のこと。しかも、キャリアアップなどは無意味ということにもなる。
 驚きの論理だが、これは著者の妄想ではなく、かつてマルクスが示した賃金の仕組みである。本書は同時にロバート・キヨサキの『金持ち父さん 貧乏父さん』を引き合いに出す。このロングセラー本を要約すると、給与労働で人は金持ちになれず、不労所得が必要というもの。
 著者は、マルクスと金持ち父さんが同じことを言っていると指摘する。フロー(所得)とストック(資産)、前者だけでは人は裕福にはなれないのだ。逆に言えば、いかに後者を築けるかが問題になるのだ。
 著者は、会社で働きながら、自分の「労働力の価値」を「積み上げ」ていく働き方を提唱する。精神論のようだが、あくまで経済学の論理をもって導き出されていくので説得力がある。
 見立てはアクロバチックながら論理はスマート。一時のカンフル剤ではなく、読書が資産となる一冊である。
    ◇
星海社新書、903円=5刷5万部

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金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学

著者:ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター、白根美保子/ 出版社:筑摩書房/ 価格:¥1,680/ 発売時期: 2000年11月

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